【02-10】
リンの提案に颯一が同意を表す。
もちろん舞も異存はない。
「じゃあ、私も帰らせてもらうわ。あ、このジャージ、ちゃんと洗って返すから」
「ごめんね。瑞穂さんの制服は破れちゃったから、他に着せる物がなくて」
「気にしないで。家に予備があるから……」
言葉を止める。何かが引っ掛かった。
「手裏剣なら回収しておいてやったぞ」
リンが棒手裏剣の束を差し出す。本数を見る限り、全部揃っている。
「ありがと。でもこれじゃなくて……」
思考を巡らせながら、腕を組んだ。
そこでひとつ気付いた。妙な開放感がある。
ジャージのファスナーを少し下げて、首元から手を入れる。
ごそごそと感触を確認。
「あれ?」
舞の呟きに、颯一の顔が強張る。
「済まぬ。お前の乳あては、気絶させる時に破れてしまった」
「だ、男子の前で乳あてとか言わないで!」
反射的に突っ込んでから、「まあ別に高いものでもないしいいけど」と継ぎ足した。
「でも、ちょっと待って。妙に何か引っ掛かってるんだけど」
視線を順に巡らせる。
小鬼達からリン、そして颯一に。
「このジャージ着せてくれたのって?」
「僕だけど」
「そう、よね。さっき言ってたもんね。で私のブラは?」
「ブラ? 乳あてか? 余が破ってしまったと言ったであろ」
「そう、よね。破れちゃってたのよね」
すらりと短刀を抜いた。鞘が床に転がる。
「ひとつだけ。ひとつだけ、つまらないことを聞いていい? イエスかノー。それ以外の答えは要らないから」
問いは颯一に向けられていた。
「見たの?」
「えっと、何をかな?」
「もう一回聞くわ。イエスかノーだけね。見たの?」
完全に温度の消えた瞳。抑揚もない。
颯一は完全に追い詰められた気分だった。
誤魔化す事もできなければ、ウソをつく気も失せる。
だから素直に。首を振った。縦に。一度だけ。
「そう。正直に答えてくれてありがと」
微笑んだ。
頬が腫れていなければ、うっとりするような優しい笑みだっただろう。
静かに自分の首元に短刀を当てる。その刃が動く寸前で止まった。
リンが手首を掴んでいた。そのまま捻り上げ、短刀を振り落とす。
「何を考えておるのだ! お前は!」
「男子に胸を見られたのよ! もうお嫁にいけないわ! 自害させて!」
「阿呆か! そんな貧相な乳、記憶の端っこにも残らぬわ! 颯一、そうであろ」
「え?」




