【02-09】
顔を伏せたまま、受け取る。
それから数分、鼻血が収まってから身体を起した。
鬼斬りとは言え女子高生。鼻にティッシュを詰めて、男子と向かい合うなんてできない。
「このくらいやってもらったら、私もすっきりよ。これから協力……ってどうしたの?」
反応がおかしかった。
ふたりとも露骨に舞から目を逸らしている。
「なに? どうしたの?」
無言のまま颯一が差し出したのは手鏡だった。
訝しがりながらも覗き込んだ舞が、「ひっ」と小さく悲鳴を漏らす。
柔らかい瓜実の輪郭が歪んでいた。
頬が三倍ほどに膨れあがっていたからだ。しかも赤や青を通り越して、どす黒くなっている。
「す、少し腫れちゃったのね。まあ、こんなの直ぐ治るわ。鬼斬りに怪我は付き物なの。だから、薬術のノウハウも凄いのよ」
泣き出したいくらいほどのショックを、心の隅に押し込んで嘯いた。
「だから、変に気を遣わないで。お願いだから」
それを最後に誰もが言葉を失い、居心地の悪い空気になってしまう。
「とりあえずは誤解も解け、一件落着といったところですな」
妙に落ち着いた声と共に白い小鬼、翔が部屋に入ってきた。
「あ、アンタは……」
舞の表情が曇る。
もう一匹、黒い小鬼を殺めてしまった。颯一の鬼に対する感情を知った今、心がずきんと痛む。
「しっかし、姉ちゃんには偉い目に遭わされたでやんすよ」
「え? アンタ生きてたの?」
「あったり前でやんすよ。いくら兄さんの為でも、命は張れんでやんす」
包帯でぐるぐる巻きにされていはいるが、その減らず口は健在だ。
「そう、良かったわ」
「いやいや。全然良くないでやんすから。詫びのひとつくらいはあるんでやんすよね」
「解ってるわよ。ごめんなさい」
頭を下げた。
忌まわしい化け物に謝罪なんて、今までの舞に有り得なかった事だ。
「それだけでやんすか? 誠意は物で示すものでやんすよ。美味い物のひとつも……」
「いいわ。今度、持ってくるから。何がいいの?」
「指定するのは下世話でやんすから遠回しに。肉的な物が嬉しいでやんすね」
「お肉ね。了解したわ」
「牛的なのがいいでやんすね。値段はそれなりのでないと。あんまり安いのは……」
「もう、ちょっとは遠慮しなさいよね」
緩い笑いが起こった。
「さて、もう遅い。今日は解散じゃな」
「そうだね。明日の放課後、改めて作戦を練ることにしよう」




