【02-05】
「僕は『死の九番』事件を追ってきたんだ。今年が犠牲者の出る年だと聞いて。それを阻止しようと思ってさ」
「わわわ私も、おお同じなの。その、あの、同じで、追いかけて」
消え入りそうな声で、何度もつっかえながら答える。
その反応は颯一にとってショックだった。
「ホントに女装趣味とかないんだよ。女の子から見て、気持ち悪いのは解るけど」
「ちちち違うの!」
慌てて両手を左右に振った。
「あの、あなたが緑桜家の人で。その、任務として。ちょちょ調査の為に、侵入したのは。そそれは解ったの」
あたふたと早口で告げた。
どうにも挙動不審。颯一とリンが顔を見合わせる。
「わわ私、男の子と。あのその、話すのが。ににに苦手なの」
予想すらしていなかった告白だった。
一瞬、どう反応すべきか戸惑ったが。
「なかなか面白いことを言いよるの。冗談にしても気が利いておるぞ。くははは」
「そんな言い方しちゃダメだってば」
大口を開けて笑うリンを嗜める。
しかし颯一も我慢するのが精一杯。小刻みに肩が震えてしまう。
「笑わないでよ! 気にしてるんだから!」
真っ赤になって怒鳴る舞。
それでも恥ずかしいのか、リンだけを見て続ける。
「父さんは任務で滅多に帰って来ないし。男兄弟もいないし。ずっと女子校だったし。男の子と話す機会なんてなかったんだから」
「いやいや。済まなかったな。バカにしているわけではないのだ」
「ウソ言いなさいよ。その顔、絶対にバカにしてるでしょ」
「僕も悪かったよ。誰にでも得手不得手はあるからね」
「あの、いえ。そんな、その」
「くふふ」
「だから笑うなって言ってるでしょ!」
反射的に立ち上がろうとして、逆に「痛たた」と身体を丸めた。
「あ、ごめん。痛み止めがあるけど」
「だ、大丈夫、です。こ、これさえあれば」
短刀の柄を捻ると手の中に丸薬が転がった。
飲み込んで、大きく息をついた。しばらくすれば痛みは薄れるはずだ。
「ね、瑞穂さん」
呼気が穏やかになり、顔色も良くなってきた頃合を見計らって話し掛ける。
「意識し過ぎているのが原因だと思うんだ」
「どど、どういう意味、なの?」




