【02-04】
舞は混乱していた。
何故、止めを刺さなかったのか。
何故、あっさり降魔刀を返したのか。
全く意図が読めない。
颯一がベッドの側に腰を下ろした。リンがその隣に。
きちんと正座する颯一に比べ、リンは胡坐に頬杖のオマケ付き。
「瑞穂さん」
真剣な口調に舞が気を引き締め、いつでも短刀を抜けるよう身構える。
「まず謝らないといけないことがあるんだ」
唐突に切り出され、舞が訝しさを露にする。
「常磐という名前は偽名なんだ。本当の名前は緑桜」
「緑桜ですって?」
舞が鼻で笑う。
緑桜家と言えば、『鬼遣い』の名門。術者であれば、外法師でも知っている家名。
それを名乗るなんて、いくらなんでも底が浅すぎる。
そんな反応を予想していたのだろう。
颯一は左手の甲を向けて舞に差し出した。
静かに意識を集中する。
ぼんやりと緑色の図柄が浮かびあがった。
上下左右に桜の花びらをあしらった二重円。その中央に一枚葉を模った紋だ。
目を見開いた舞が、颯一の手を引き寄せた。
ギリギリまで顔を近付け確認する。
「間違いない。緑桜の家紋、本物だわ」
正統な術者は身体の数箇所に、自分の家紋を彫り込んでいる。
使われるのは特殊な染料。普段は目に見えないが、識別用の術を掛けると浮かび上がる仕組みだ。
染料は家毎に独自の色合いを持ち、これと家紋が一致する事で身分証明となる。
偽術者対策として有効なのはもちろん、怪異に惨殺された術者を特定するのにも活用されている。
はっと舞が警戒を浮かべた。記憶が正しければ。
「アンタ、何者なの。緑桜家に女子はいないはずよ」
舞の質問に颯一がうな垂れる。
今にも泣き出しそうな顔だ。
「な、なによ。その反応」
「安心せい。こやつの名は緑桜 颯一。正真正銘の男だ」
「ホントなの? 女装してるってこと?」
こくりと颯一が頷く。
舞の反応は早かった。
自由にならない身体にもかかわらず、ざざっとベッドの端まで下がる。
「その反応も無理はないな。女装して女子校に入り込むなんぞ。どう考えても変態じゃ」
「嫌な言い方しないでよ。まるで僕が好きで女装しているみたいに聞こえるだろ」
「安心せい。とても似合っておる」
「全然嬉しくないってば!」
つい声を荒げてしまった。
コホンと咳払いして仕切り直す。
「女子校だって知らなかったんだ。それでこんなことになっちゃって」
説明してみるが、舞は目すら合わせようとしない。颯一は仕方なく話を進めた。




