【02-01】
【2】
──九月十一日(水)──
Y県の『聖アンドリューズ学院』は明治時代の宣教師が開いた私塾が母体。
約百二十年の歴史と伝統を誇る名門高校だ。
県の中心部より、やや校外。北部山地に続く丘陵地域に建つ。
都会の喧騒から離れた穏やかな場所である。
昼休み。いつものランチタイム。
二年でありながら、ソフトボール部の主軸選手である陽菜。常に明朗快活な彼女でも黙り込んでしまう。
正直なところ、何からどう聞くべきなのかも解らなかった。
周囲のクラスメイト達は完全に見て見ぬフリを決め込んでいる。
「あのさ。昨日の放課後、何かあったの?」
意を決して、ようやくそれだけを口にできた。
「え? どうしてです?」
舞が不思議そうに首を捻る。
左の頬、顔の約半分を覆っている湿布。
瓜実の輪郭が歪んでいるのを見る限り、かなり腫れ上がっているのが解る。
朝一番、驚く陽菜に対し、「足を滑らせてしまって」と恥ずかしそうに説明した。
どれほどアクロバティックに転倒すれば、ここまで腫れるというのだろうか。
疑問はそれだけではない。
授業中、舞は何度もハンドミラーを取り出して、後ろを確認していた。
その度に深く重い溜息をこぼす。まるで恋する乙女といった風情。
倒錯した趣味に目覚めてしまったのだろうか。
止めは、これだ。
陽菜は机に目を落とした。
女子にしては大振りなお弁当。御飯とおかずが八対二という質量重視の編成で、なかなかのインパクトを誇る。
だが、舞が持参した弁当に比べれば霞んでしまう。
約二十センチ四方。黒内朱塗の三段重ね。
一段目はから揚げにウインナー、ハンバーグにカツが並ぶ。どれもひと口サイズ。
二段目は野菜中心になっている。色鮮やかな茹で野菜に加え、マカロニサラダやポテトサラダもある。
三段目はオニギリ。均等な俵型が整然と並ぶ。三種類の振り掛けで見た目も綺麗な仕上がりだ。
「つい、うっかり作り過ぎてしまって」
どううっかりすれば、この結果が導き出されるのだろう。
陽菜は見当すら付かない。
「ささ、颯香さん、食べて下さい」
頬を微かに赤らめながら告げる舞の様子はどう見ても……。
「あのさ。昨日の放課後、何かあったの?」
同じ質問を今度は、颯一達にしてみた。
「いや、特に何もなかったんだけど」
颯一はただ唖然といった感じ。




