【01-03】
「聞いてなかったんだね? パフェを食べるのに夢中で」
「失敬な。余がそんな卑しいと思っておるのか」
ぷっくらと丸みのある頬を、ひと回り膨らませて抗議する。
口元についた生クリーム。手にしたスプーンには、アイスが乗ったまま。
なかなか説得力のある主張だ。
「ここのパフェは美味しいから、しょうがないよね。良かったらもうひとつ食べる?」
「ふふん。純は話せるのぉ。無論、遠慮はせんぞ。次はこのチョコパフェというのを食べてみるのじゃ」
「純さん、あまりリンを甘やかさないでくださいよ」
颯一が苦笑交じりに告げる。
純はとにかくリンを猫可愛がりする。
「うちの妹もこんなに可愛かったら」というのが口癖だ。
「ところで、純さん」
ウエイトレスに追加注文するリンから、対面の新米刑事に顔を戻した。
「今日、この話をするというのは、やはり……」
「そうなんですよ。前回の事件から今年でちょうど三年。また『死の九番』による事件が起こると考えてるんです」
「念の為に確認しますが、類似した事件は、他の場所では起こってないんですか?」
「あれこれ調べたり、各県にも聞いてみたんですけど、ないんですよね」
「そう、ですか。あの、これはお願いなんですが、僕をその学校に転入させてもらうことってできますか?」
いきなりの申し出に目を丸くする純。
「校内から調べてみるのが、一番手堅い方法だと思うんですよ。年齢的にも高校生の僕なら溶け込むのは難しくないですし」
「それは解りますよ。解りますけど……」
「短い間、数週間でいいんです。なんとかお願いします」
「あ、そんな、頭を下げないで下さい。お願いしてるのはこっちなんですから。捜査に協力してくれるのは嬉しいですけど。でも、颯一くんにとって、決して楽しいことにならないし……」
「純さん、僕も術師の端くれです。何もせずに被害者が出る方が、何倍も辛いです」
強い意思のこもった目で、そう言われると純は反論できない。
「解りました。手配してみます」
「ありがとうございます」
ほっと息をついた颯一とは違い、純の表情は晴れない。
「純、大丈夫じゃ。天下無敵の余がついておる。心配無用じゃ」
「そうだよね。リンちゃんがいれば安心だよね」
途端に甘ったるくなった声色に、颯一は鈍い頭痛を覚えた。