【01-28】
「力の差ってのが解ったでしょ」
冷たく告げる舞。しかし、その表情は晴れない。
「抵抗しても苦しいだけよ。目を瞑ってじっとしなさい。ひと思いに首を刎ねてあげる」
コンプレックスに触れられ、感情的に行動してしまった。
しかし、少し頭が冷えてくると、やりすぎたと後悔が湧いてくる。
そんな舞をリンが睨み上げた。
血の気を失った顔に、不敵な笑みを作る。
「ふん。面白いことを言いよるな。余の首を落としても、貧相な乳は大きくならんぞ」
「なんですって!」
舞が声を荒げた。
その様子にリンは内心安堵。
リンには瑞が颯一の鎖を解こうとしているのが見えていた。
舞に振り返られたら終わり。気取られないよう、注意を引く必要があったのだ。
しかし意外にも、舞は短刀を構えながら、半歩距離を開けた。
「忿速は侮らる可きなり、よ。短気はダメ。落ち着いて」
孫子を呟きながら、大きく息を吐いた。
「アンタ、何か企んでるでしょ」
「それに答える義理があるのか?」
リンの返答に苛立ちを募らせながらも、ある可能性に行き着いた。
リンに注意を割いたまま後方、颯一を見やる。
いつの間に現れたのか小鬼が二匹。
そのうちの片方、黒い小鬼が捕縛鎖に触れるところであった。途端に全身の毛が逆立つ。
鎖の衝撃による物だ。
「それで挑発したってわけね。どうせ無駄なのに」
看破されたならと、リンが立ち上がる。
満身創痍にもかかわらず、その瞳は闘争心を失っていない。
「無駄じゃと? 愚か者め。所詮は巻きついた鎖じゃ。簡単に外せる」
「アンタも解ってるでしょ。触れたらどうなるか。従八位のゴミに耐えられるわけないって」
実際、数十秒なら耐えられる。その時間があれば、鎖を解くのは可能。舞は己の術を過大評価せず結論付けた。
しかし、そんな事は絶対に有り得ない。
鬼遣いの術は鬼を支配下に置きコントロールする物。
その関係は一方的であり、鬼は常に反抗の機会を伺っている。
術者が気を失っている状況、命を賭けてまで助けようとするはずがない。
「そもそも鬼なんて薄汚い化け物よ。そんなのに頼るなんてナンセンスなの」
己を切磋し、鍛錬を重ねる。
自分の肉体という最も信頼できる武器で戦う鬼斬りらしい意見だった。
「ほら、直ぐに諦めて手を離すわよ」
そう言ってみたが、黒い小鬼は一向に手を離そうとしない。
鎖が緩み始めている。
「ちょっと、冗談でしょ」
手裏剣を取り出そうとして、舌打ち。
スカートは破かれていたのだった。
すぐさま駆け出した。
鎖が外される前に短刀で斬り倒すつもりだ。
無論そうはさせまいとリンも追うが、累積されたダメージにいつも速度が出ない。




