【01-25】
「ちょっと! なんてことしてくれたのよ!」
舞の叫びがリンの思考を中断させた。
ポケットから手裏剣を取ろうとして、自分の有様に気付いたのだ。
スカートは引き裂かれ、左半分がなくなっていた。
白い太ももだけでなく、淡い水色のショーツまで見えている。
シャツも胸元から腹部に向かって大きく破れ、控え目に膨らんだブラが露になっていた。
「なんてことしてくれたの! 私、電車通学よ! 男の子に見られたらどうしてくれるのよ!」
耳はおろか、首まで真っ赤にして怒鳴る。
シャツとスカートを引っ張りながら、なんとか下着を隠そうとするが、物理的に全く布が足りない。
「お嫁に行けなくなっちゃうでしょ! どうしてくれるのよ!」
「安心せい」
リンが意地悪な表情を作る。
「そんな貧相な身体、誰も見ようともせん」
「失礼ね! そ、そりゃちょっと細身かもしれないけど」
「詰め物して、その程度ではな」
実際のところ、リンに確証が合ったわけではない。
あまりに気にする舞の様子から、ひょっとすると、と思っただけだ。
ぴたりと舞の動きが止まった。涙の溜まった瞳で睨みつける。
「許さない」
メタフレームのメガネを外す。ぐっと殺気が増した。
「絶対に許さない。楽に殺してなんかあげない」
冷たく言い放つと、次に短刀の柄を左手で捻る。
柄に仕込まれたカラクリが作動。手の平に小さな丸薬が落ちた。
迷いもなく口に。ごくりと飲み込み、短刀を正眼に置く。
それを見てリンもファイティングポーズを取った。
小さくステップを踏みながら、舞の出方を覗う。
視界が不十分な今、待ちに徹する構えだ。
じりじりと数十秒の時が流れる。
リンが目をしばたたく。
ようやく視界が戻ってきた。鮮明とまではいかないが、なんとか物が追えるレベルになりつつある。
腹の傷も出血は止まった。
「待ったのは失敗だったわね」
唐突に舞が告げた。
「効いてくるまで、時間が欲しかったの」
「さっきの薬か?」
「そうよ。これでアンタに勝ち目はなくなったわ」
言うが早いか、舞が間合いを詰めてきた。
リンの予想より数倍は速い。
ぶんと短刀が走った。
咄嗟に体を引いたリンの首元を掠める。
続いて前蹴り。反撃に移ろうとしたリンのカウンターを狙う。
リンは左腕でガード。強引に腕力で弾き返そうとする。
「むむ」
声が漏れた。
後ずさったのはリンの方だった。明らかにパワーで押し負けた。




