【01-23】
「鬼斬りなら、戦う理由はない。余らも同じ、悪しき怪異と戦うのが生業じゃ」
「へぇ、最近の鬼って嘘も言えるのね」
「む。余を嘘つき呼ばわりする気か?」
断じられ、リンが不快感を露にした。
「鬼斬りの情報網を舐めないで欲しいわね。常磐家なんて術家はないわ。つまりアンタ達は外法師よね。私利私欲の為に術を行使する輩を野放しになんてできないの」
術は基本的に門外不出。家々が徹底的な管理をしている。
だが、極稀にではあるが我流で術を編み出したり、模倣から体得する者が出てくる。
彼らがその力を悪用した場合は、『外法師』と呼ばれ、怪異と同列、排除の対象とされるのだ。
「誤解もはなはだしいな。常磐という名は……」
そこで舞が動いた。
スカートのポケットから何かを取り出し、すぐさま投げつける。
身体に届く寸前で、リンが掴み取った。
長さ五センチ、直径一センチの棒手裏剣。全部で七本だった。
「む、退魔鋼か」
リンが手裏剣を捨てる。
触れていた部分に、ちりちりとした痛みがあった。
「そうよ。いい勘してるわね」
怪異や魔物は物理攻撃に対しての耐性が高い。
位階が上がるにつれ、その耐性は加速度的に増していく。
従六位以上であれば、刀剣を弾き、銃弾を物ともしない。
強力な爆薬であっても怯ませる程度だ。
そんな化け物達への殺傷能力を高めたのが退魔鋼。
特殊な製法で作った鋼に、祈祷や呪術を施した特殊金属の総称である。
「退魔鋼の手裏剣よ。急所に当たれば鬼でも致命傷ね」
「当たれば、な」
リンの挑発に応えるように、舞が手裏剣を放った。左右の手で。数は先ほどの倍だ。
対するリンは構えた。
拳を作って前に。軽く脇をしめる。ボクシングスタイルに近い。
ステップで数本を回避。
よけられない分は、コンパクトなパンチで叩き落とした。
「なかなかやるわね。じゃあ、これはどう?」
舞が大きくジャンプ。急角度で手裏剣を投げる。
「ふん。造作もない」
リンの拳がやはり手裏剣を打ち払う。が、その内の一本が破裂した。
キラキラと破片が広がる。
「くっ!」
粉末状になった退魔鋼が目に入った。
焼けるほどの痛みだ。
「これで終わりね」
着地と同時に舞が手裏剣を撃つ。
無防備になったリンの腹に、三本が深々と刺さった。
「おのれ。卑怯な」
リンが片膝を付いた。
額には大粒の汗が浮かび、苦しそうな様子が見て取れる。




