【01-22】
狙い違わずふたりを捉え、両腕ごと胴体に巻きつく。
直後、衝撃が全身を駆け抜けた。
リンは耐え切ったが、颯一は無理。
呻きを残して、力なく倒れてしまう。
「颯一!」
リンの叫びにも、反応しない。
「心配ないわよ。気絶させただけだから」
告げたのは、他ならぬ舞だった。
口調ががらりと変わっている。
「でも、驚いたわ。私の捕縛鎖に耐えるなんて。ちょっと意外だったかも」
「この感触。昨日の空間隔離と似ておる。昨日のアレもお前の仕業じゃな」
「そうよ。牛頭馬頭でアンタ達の力を測らせてもらったの」
「それなりの覚悟があると見ていいのじゃな」
睨みつけるリンに対し、穏やかな表情のまま続ける。
「色々と聞きたいことがあるの」
「聞きたいことじゃと?」
「あ、お姉さんの方にね。アンタは殺すから」
「余を殺すだと? 冗談にしては、ちと質が悪いな」
「残念だけど本気よ。鬼遣いは鬼がいなくなれば無力。その後の手間が省けるから」
事も無げに告げた。
「気絶してれば、苦しまないように首を刎ねてあげられたのに」
「ほほう。身の程知らずも甚だしいな。よいであろ。軽く遊んでやる」
ぐっと上半身に力を込めた。
「無駄ね。そんな力づくで、私の捕縛鎖が外せるわけないわよ」
舞の捕縛鎖には特殊な呪力が込められている。
絡め取った者に、強力な衝撃を与え無力化するだけではない。
徐々に相手の力を奪っていく効果もある。
更に下手に外そうとすれば、より大きなダメージを与えるようになっている。
「くっ!」
リンが呻いた。
歯を食いしばり、先ほど以上の衝撃に耐える。
「もう、無駄だって言ってるでしょ。正七位くらいの鬼じゃ……」
言い終える前に、リンに巻きついていた鎖が千切れ飛んだ。
「う、うそでしょ」
驚く舞。その眼前にリンが迫っていた。
恐るべき瞬発力。その勢いのまま拳を振るう。
舞が咄嗟に飛び退いて距離を開けた。
リンと舞が同時に舌打ち。
顎を軽く掠め気絶させるつもりだったリン。
捕縛鎖で完全に捕らえたつもりだった舞。
双方相手を安く見積もり過ぎていた。
「その身のこなし。お前、鬼斬り(おにきり)か?」
怪異や魔物を倒す術には様々な系統が存在する。また、習得した技術により呼称も変化する。
魔物の一種である鬼を召喚し、利用するのが颯一達『鬼遣い』。
真言と印の組み合わせで術を発動させる『法術師』。
自然の力を扱う技術に長けた『修験師』。
意志力を言葉に乗せ超常力を発揮する『言霊遣い』。
触媒や詠唱を高度に体系化した西洋魔術、それを駆使する者が『魔術師』だ。
他にも人間の負の感情をトリガーにする『呪術師』や、錬金術の流れを汲む『秘術者』などが存在する。
『鬼斬り』は最も異質。
武術や格闘技を対魔物用に昇華させた者達である。
彼らは薬品や術で肉体を強化し、白兵戦闘で魔物を制する。
「そうよ。怪を絶ち、魔を滅し、鬼を斬る。それが私達、鬼斬りよ」




