【01-21】
「当然じゃ。そういうお前は、あんな時間に特別な愛着があるのか?」
「それは」
口元に手を当て、少し思考を巡らした。
それから。
「実は私も好きじゃなかったりします。でも、一応クラス委員なので、内緒にしておいてくださいね」
そんな冗談を口にする。
談笑している内に、五階に辿り着いた。
教室に進もうとした颯一達を、「あ、待ってください」と舞が呼び止める。
「実は内緒の、とっておきの場所があるんです」
言いながら人差し指を上に向けた。ここは最上階、この上にあるのは。
「屋上への出入りは禁止されているはずだよね」
「あまり知られていませんが、東校舎だけ屋上の鍵が壊れているんです。お昼にこっそり出てる方もおられるんですよ」
「でも」
「屋上からの眺めがとても素敵なんです。それに敷地全体を見渡せますし、案内の一環と言えなくないですから」
強引とも思える誘い。
これまでの控え目な言動との差異を感じ、颯一は返事に迷う。
「案内してくれると言っておるのだ。考える必要などあるまい」
リンが割り込んできた。その瞳が好奇心に輝いている。
「いや、ほら、校則違反はやっぱり良くないしさ」
「大丈夫ですよ。このくらいのことで問題になったりしませんから」
「お前は変に真面目過ぎるのだ。時には決められた枠を越えることも必要じゃぞ」
「解ったよ」
別段、明確な反対理由があったわけではない。
無駄な口論を避けた。
「では、行きましょう」
舞を先頭に階段を上る。昇降口には金属製の扉があった。
ノブを掴んで押すと、ギギギと錆びた音と共に開く。
舞の言った通り、鍵が壊れているのだろう。
「ささ、どうぞ」
ドアを支えたまま促す。
舞の脇を抜け、屋上に出ようと。したところでふたりの足が止まった。
今は九月、夕方とは言え屋上はかなりの温度。
当然、むっとした熱気を感じるはず。
それなのに妙にひんやりとした空気が流れ込んでくる。
明らかな違和感を口にするより先に。
いきなり背中を強く押された。
不意の事に踏ん張りきれず、ふらふらと数歩進んでしまう。
慌てて振り返るったところで、その顔が強張る。
凄まじい速度で鎖が飛んできていた。
ただの鎖ではない。両方に錘が付いた鎖分銅と呼ばれる武器だ。




