【01-20】
「あれだけの破損を、ひと晩で直すか。敵はかなりの使い手だな」
「違うよ。僕らがいなくなってから、直ぐに戻したんだ」
「ん? どういう意味じゃ?」
「あれだけの戦いなのに、誰も来なかった。なんらかの術が施されていたと思うんだ」
「空間を隔離するタイプのやつじゃな」
「でも、いつまでも誰も通らないはずはない。この学校は十八時に全員下校となるからね。そのタイミングで残っている生徒がいないか見回るはずなんだ」
「破壊されたままだと大騒ぎになる、か。つまり、あれから数分で片付けたわけだな」
「うん。短時間でここまで完璧に戻せるのは、並みの術者や怪異じゃない。『死の九番』というのは、かなり手強い相手だよ」
「それは楽しみじゃ。昨日の二匹くらいでは、どうにも不完全燃焼でな」
「強気は結構だけど、調子に乗りすぎて失敗しないようにしてよ」
「心配無用だ。余は天下無敵じゃからな」
「その自信が不安になるんだけどね」
「お待たせしました」
丁度、会話がひと段落した頃合で舞が戻ってきた。
「行きましょうか。北からぐるっと回って、最後に東校舎に戻る感じで案内しますね」
颯一とリンが改めて礼を述べつつ、腰を上げた。
※ ※ ※
舞の案内は、真面目一辺倒の退屈な物ではなかった。
食堂ではお勧めのメニューを紹介。科学実験室では担当教諭の失敗談を添え。視聴覚室では七不思議のひとつを披露。
なかなか堂に入った物だ。
「どうでしたか? この学校、好きになって頂けそうですか?」
東校舎の階段を上がりながら、舞が尋ねた。
「うん。とても素敵なところだね」
「色々と面白い場所であるな。惜しむらくは、授業が退屈なところだけじゃ」
リンのコメントに、舞が小さく笑みをこぼした。
「でも、敷地内に礼拝堂があるのは珍しいね」
西校舎の裏に、三角屋根に十字架が付いた小ぶりな建物があった。
「普通の学校にはない施設ですよね。今日は見かけませんでしたが、とっても美人なシスターがいらっしゃるんですよ」
「そうなんだ」
「週に一時間ですが、宗教について学ぶ授業があるんです。ウチのクラスは明日の水曜日です。その時には、あのチャペルで聖書を読んだり、聖歌を歌ったりするんですよ」
「ほう。少なくとも、数字や異国の言語よりは楽しそうだ」
「ふふ。リンさんは余り授業がお好きでないようですね」




