【01-02】
※ ※ ※
──九月一日(日)──
「ハートの九、ですか。トランプの」
緑桜颯一は、細い眉をひそめた。
颯一は綺麗な顔立ちの少年だ。
涼やかな瞳に、すっと通った鼻。肌も白くきめ細かい。男子にしては肩幅が狭く、胸板も薄い。
髪も少し長めで、どことなく中性的な雰囲気を感じさせる。
年齢は十六。
表向きは隣町の公立高校に通う二年生。
日曜の今日は、デニムのボトムとジャケットというラフな格好だ。
「物品に念を込めるという呪術はありますが」
そう言いながら、カップのティをひと口含んだ。
ハーブの香りがふわりと広がる。
ここ、喫茶『ハーロック』は、古風な雰囲気が売り。
数年前に出来た駅前のショッピングモール地下三階、少し奥まった場所にある。
手狭な店内は艶やかなステンドグラスで彩られ、パーティション分けされたミニテーブルが七セット置かれている。
レジから最も離れた窓際の席に、颯一達三人は座っていた。
「呪術とは対象を決めて行う物です。無差別に行える物ではありません」
「でも現実に人が何人も死んじゃってるし。その学校では『死の九番』なんて怪談にもなってるんですよ」
答えたのは、颯一の対面に座っていた初瀬純だ。
下がった目元に血色の悪い頬。声は高めで薄っぺらく、どことなく頼りない。
ヨレヨレの紺色スーツにも、着られている状態だ。
「純さん、定期的に犠牲者が出ているんですよね」
「三年毎なんですよ。いやね、僕ら警察としてもお手上げで。ここは颯一くんに何とかしてもらいたいなぁと」
颯一より八つ年上にも拘らず、どうにも甘えたような言い方になってしまう。
「もちろん、僕もできる限り助力したいとは思っていますけど。ね、リンはどう思う?」
「んあ?」
いきなり振られ、颯一の隣に座っていた少女が珍妙なひと言を漏らした。
くりっと猫っぽい目が眼前のパフェから移動する。
小柄な颯一よりも頭ひとつは低く、まだ女の子と呼称するのが相応しいくらい。
全体的に飾り気が薄く、衣服はハーフパンツにシンプルなシャツ。
長く伸びた赤毛もエンジのリボンで無造作に束ねているだけだ。
「ふむ。なかなかひと言では答えられん問題だな」
愛らしい鼻をふふんと鳴らし、形良い桃色の唇を難しそうに歪めた。