【01-19】
どう応えるべきか迷う颯一を置いて、
「目的がないわけなかろう」
リンが素っ気なく言い切った。
「ちょっとリン」
「あら、意外なお返事。どんな目的があるのか聞かせてもらえる?」
「ふん。お前に話して、余らに何の得があると言うのだ?」
しばしの間があった。
リンの言葉をゆっくりと反芻した結果、理紗は笑った。
口元を押さえつつではあるが、さっきまでのクールなイメージとは掛け離れた馬鹿笑いだ。
「あはは。面白いじゃない。面白いわよ。あなたの言う通り。何の得もないのに話す必要はないわ」
溢れた涙を拭いながら、妙な納得を見せる。
「私は多くの情報を持ってるわ。噂やゴシップの類も含めてだけど。それに校内新聞というメディアもある」
「君の質問に答えれば見返りがあるってことだよね」
颯一の確認に、理紗が首肯する。
「そういうこと。まあ、頭の隅にでも置いててね。じゃ」
そう言うと踵を返し、廊下に出て行ってしまう。
「足柄みたいな奴と、あんま係わらない方がいい」
「らしくないな。あやつと何かあったのか?」
「別に。なにもないよ」
多分に不快感を滲ませる。
そこでチャイムが昼休みの終わりを告げた。
※ ※ ※
「日誌を先生に届けたら、校内を案内しますね」
放課後。
舞がそう告げて出ると、教室内は颯一とリンだけになった。
リンが力なく伸びをする。
「相変わらず授業が退屈でたまらん。颯一は凄いな。こんな下らない時間を、我慢強く耐えられるとは」
「あのさ、リン。ノートを取れとまでは言わないけど、聞いてるフリくらいはしてよ」
授業中。
特に最後の英語で、リンは石像のように固まっていた。
力なく中空をぼんやり眺めているだけ。
いつ注意が飛んでくるか、颯一は冷や冷やしっぱなしだった。
「席を立たないよう我慢しておる。これ以上はできん」
これ以上の妥協は引き出せないだろう。
颯一は素直に諦めた。
「授業の話はどうでもいい。それよりも問題は下の階のことじゃな」
「うん。そうだね」
颯一達のクラスは最上階の五階。
昨日、リンが大立ち回りを演じた三階は、すっかり修復されていた。
牛頭馬頭が破壊した教室も全てである。
 




