【01-15】
※ ※ ※
「鬼遣い、ね」
東校舎。
立ち入り禁止となっている屋上に、ひとりの少女の姿があった。
「この次期に短期転入。おかしいとは思ってたけど」
スマートフォンから顔を上げる。
そのディスプレイに映っていたのは東校舎三階。
さっきまで颯一達が戦っていた場所だ。
牛頭馬頭の死骸がぶくぶくと泡立ち、濁った赤と青の液体に変わりつつあった。
「我流の術じゃないように見えたけど。常磐なんて術家あったかな」
少し首を捻って記憶を検索するが、どうにも思い出せない。
「まあ、いっか。戦うことは変わらないんだから。まず敵の戦力を分析ね。彼を知り己を知れば、百戦して殆うからずよ」
孫子を呟きながら、考えを先に進める。
「二匹の小鬼は、従八位のゴミ。術を増幅させる触媒と言ったところね」
鬼や怪異、人外の力を持つ化け物達。
彼らの持つ力を総合し、位階に分類する事ができる。
正従それぞれ八段階、合計十六種類。
数字の小さい方が強力な存在であり、また正の方が従より高位にあたる。
最高ランクが正一位。次が従一位。そこから正二位、従二位と続き。最低ランクは従八位となる。
「あの妹と称してた奴は、そこそこね。正七位くらいかな」
地獄の獄卒として知られる牛頭鬼と馬頭鬼は従七位。
その二体を圧倒的な差で蹴散らすとなると、ワンランク上と考えられる。
「そうだ、奥の手あるようなことを言ってたわね。力を制限しているのかも。従六位、いや高めに正六位と見積もるべきかな」
人外の魔物と言えど、人間が戦えないわけではない。
武器があれば、従八位や正八位は素人の集団でも倒す事ができる。
現代の火器で武装すれば、正七位までならなんとかなるだろう。
「正六位ね。正面から戦っても勝てるけど。迂を以て直となし、患を以て利となすからず、って言うしね」
またも孫子を引き合いに出す。
「短慮は避けて、策を弄するのがいいわね。敵は鬼遣い。鬼さえ駆除すれば無力になるんだし。簡単に捕縛できるわ」
そう言うと、形良い唇を不敵に緩めた。




