エピローグ -4-
不安そうに揺れる舞の言葉に、颯一は微笑で応える。
「とんでもないよ。心強い限りだなって」
「そんな。もう」
直接的な言葉に頬を紅潮させながら身をよじる。
持っていた金属製のお盆も、ぐねりとよじれた。
流石は『鬼斬り』の腕力だろう。
「真に受けるな愚か者。ただの社交辞令じゃ」
すかさずリンが水を差す。
「なによ。アンタに聞いてないでしょ」
「ふん。余は颯一の心を代弁しただけじゃ。それより、さっさと注文をとらぬか。余は早くパフェが食いたいのじゃ」
「解ってるわよ。フルーツパフェ、みっつね。はい、ありがとうございます」
ぷっと頬を膨らませながら反転。
カウンターに戻っていく。
「やれやれ、面倒なやつが近くに来たもんじゃのう」
と言いつつも満更ではない様子のリンだった。
「でも男子のお客さんが増えるのは納得ですよね」
純がふむふむと頷く。
整った顔立ちに古風な制服。それに加え、耳まで赤くしての接客とくれば、人気が出ないはずがない。
「でも、純さん。僕らもパフェになっちゃいましたよ」
「あ、そう言えば。酷いなぁ。あんまり甘いの得意じゃないのに。でも、変更とか無理なんでしょうね。ほら怒りそうじゃないですか」
さっきの脅しが利いたのか、舞に対し苦手意識が出来てしまったようだ。
「ふん。安心せい。みっつくらいなら余が食ってやる」
「そうだね。リンちゃんがいてくれたら安心だよねぇ。はぁ、ウチの妹もこれくらい可愛ければなぁ。この前なんて酷いんですよ。僕の部屋に勝手に入ってですね。大事な美少女フィギアを捨てちゃったんですよ。不潔だとか言って」
いつもの愚痴を垂れ始める。
余程悲しいのか後半は鼻声に。目に涙まで溜まっていた。
「子供の頃は、子供の頃はですよ。お兄ちゃんと結婚するとか言ってたのに」
「小さい頃の話ですからね」
「ふん。相変わらず女々しい奴じゃのお」
容赦ないひと言に、純は肩を落とした。
「純さん、心配要りませんよ。妹さんは反抗期なんです、多分」
「そうですよね。反抗期が終われば、またお兄ちゃん大好きって言ってくれますよね」
それは無理なんじゃないかなと思いつつも、颯一は口にしなかった。
夢を持つ事は悪くないはずだから。それがどんなにあり得ない妄想であったとしても。
「で、純さん、最近は変な事件とか起こってないですか?」
「いや、それがですよ。厄介な事件が起こっているんです。刃物による刺殺事件が三件連続して起こりまして。犯人は直ぐに捕らえたんですが、凶器として使われたナイフが同じデザインの物だったんです」
懐から写真を一枚出す。
写っていたナイフは刃が大きく波打ち、刀身に幾何学的な紋様が彫りこまれている。
「珍しい物ですね」
「これを製造しているのが、とあるカルト教団なんですけど」
捜査で得た情報を並べていく純と、それに耳を傾ける颯一。
ふたりの退屈な会話から、リンはそっと目を反らした。
舞がお盆を手に歩いてくる。
パフェだけでなく、ハーブティとコーヒーが載っているのが見えた。
マスターの気遣いだろう。
それにしてもと溜息をこぼす。
「今の時代は物騒な事件が多いのぉ。人間とはホントに困った連中じゃな。ゆっくり休んでおる暇もない」
<Fin>




