【01-14】
「緑桜の家名なんて、僕に似合わないよ。それよりもリンがいてくれる方が、何倍も嬉しいよ」
「その言葉、なによりも嬉しく思うぞ。余も颯一と過ごす日々が、なによりの……」
「あいたた、まったく酷い目にあったでやんすよ」
「流石は地獄の獄卒。難敵であった」
床にめり込んでいた白黒の玉が、ふわりと浮き上る。
数回明滅したかと思うと、二匹の小鬼になって地面に落ちた。
瑞と翔だ。
寄り添っているふたりに気付き、バツの悪そうな表情になる。
「あ、すいやせん、ご両人。あっしらのことは気にせず続けておくんなせぇ」
「阿呆か!」
耳まで真っ赤にしてリンが怒鳴る。
「お前らが起きるのを待ってただけだ! そもそもお前らはなんなのだ! あんな雑魚に一蹴されおって! 情けないにもほどがある!」
「姐上、そうは言われましても、我ら小鬼と馬頭には圧倒的な力量差がありまして」
「そうでやんす。退かなかった男気を評価して欲しいでやんすよ」
「言い訳するでない! とにかく、今から鉄拳前提の反省会じゃ!」
「それは酷いでやんすよ」
「うるさい! 反省会と言ったら反省会じゃ!」
「あのさ、リン」
どすどすと足を踏み鳴らすリンに、遠慮がちに声を掛ける。
「とりあえず移動しよう。誰か来たら、大変な事になっちゃうし」
リンが続きを飲み込んだ。
崩れた教室の壁。吹き飛ばされたドア。ヒビの入った天井と床。
言い訳するにはハードルが高すぎる。
「むむ。仕方ないな。さっさと行くぞ」
「あ、ちょっと!」
お姫様抱っこの要領で颯一を抱えて駆け出す。
もちろん、颯一の抗議になんて耳を貸そうともしない。
あっという間に廊下を走り抜け、階段を駆け下り。校舎から外に。
更に加速度を上げて、校門を潜る。
「行ってしまったな」
「行っちゃいやしたね。っていうか、あっしらも急がないと」
二匹も慌てて後を追った。
 




