エピローグ -3-
「ん。プリンパフェかマロンパフェの二択じゃな。いや、ピーチも悪くない」
「ご注文はお決まりですか?」
後ろからの声に振り返る。
ロングの黒ワンピースに、控え目なフリルが付いた白エプロン付けたウエイトレスだった。
レトロな服装だが、店の雰囲気にマッチしていて違和感がない。
むしろ、ここではこの格好と言えるほどマッチしている。
いつも通り、ハーブティを注文しようとした颯一が固まった。
「よし。余はフルーツパフェを……」
決断してメニューから顔を上げたリンも動きを止める。
整った顔立ちにメタルフレームのメガネ。柔らかそうな瓜実の輪郭。
黒い髪は丈を短く、肩口までになってはいるが、確かに。
「瑞穂さん?」
「舞なのか?」
ウエイトレスは、してやったりな表情で頷いた。
「どうして? ここに?」
「週末はこっちでバイトすることにしたの」
言いながら、純の方に視線を移した。
「あの、あの、せせせ説明を、その、おおお願いします」
途端にたどたどしくなる。男性苦手は、まだまだ健在だ。
「これからは彼女にも協力してもらうことになったんです。あ、颯一くんと同じ、フリーの術者としてね」
「そんなの聞いてませんでしたけど」
「実は彼女に口止めされていまして。女の子としては言えないじゃないですか。惚れたからって……」
舞の手が純の口を塞いだ。
温度の消えた声で、「余計なこと言わないで」と小さく告げる。
殺意のこもった瞳に、純は壊れた人形のように、こくこくと何度も頷いた。
純からそっと手を離し、何事もなかったように颯一達に顔を戻す。
「あの事件で、自分の実力不足を痛感させられたわ。だから、この人に仕事を回してもらえるようにお願いしたの」
「こっちは人手不足ですからね。しかも正規の術者にお願いすると、お金も掛かりますし。もう、渡りに船って感じなんですよ」
何も考えてない純らしい意見に、颯一は軽いめまいを覚えてしまう。
「ここまではかなりの距離があるし。大変なんじゃない?」
「大丈夫。実は姉がこっちにいるの。週末は泊めてもらえることになってるから。事件がない時は、こうして叔父さんのお店で働かせてもらえるし」
「おじさん?」
意外な関係に、つい声が出てしまう。
「そうよ。ここのマスターは私の叔父さんなの」
「じゃあ、ひょっとしてマスターも?」
「今は一線を退いているけど、名うての『鬼斬り』だったのよ」
衝撃の事実を聞いて、颯一がカウンターを見やった。いつも通り寡黙なマスターが立っている。
言われてみれば、そんな雰囲気があるような、ないような。
「あの、もしかして迷惑とか思ってる?」




