エピローグ -2-
「颯一くんが気にすることじゃないですから。むしろ、異常に気付かなかった警察こそ非難されるべきなんです。うん」
「でも、僕らがもっと早く動けていたら」
「自惚れるな、颯一。そういう考えが、明星のような人間を生むのだぞ」
リンの指摘に、颯一が口をつぐんだ。
明星の中には歪んだ正義があった。
学院の為であれば、生徒の為であれば、人を殺める事すら正しいと思う。
それはとても恐ろしい思考だ。
重くなった空気を払うように、純がパンと手を叩いた。
「とにかく解決したんですから、いいじゃないですか。それよりもあっちの生活はどうでしたか?」
チャペルの破壊はガス漏れによる事故、明星はそれにより命を落としたとなっている。
葬儀は全校を挙げて行われ、彼女を慕っていた生徒達の多くが泣き崩れていた。
数日間の臨時休校の後、颯一は残った数日を平穏に過ごした。
最終日には盛大な送別会も行われ、颯一やリンにとっては大切な思い出となっている。
余談ではあるが、ソフトボール部の隈野 陽菜と新聞部の足柄 理紗の関係も、少し改善された。
遊びに行く度に、ふたりが顔を合わすようにリンが誘ったからだ。
短期間であるが共に戦った『鬼斬り』の瑞穂 舞とは、良い関係を継続。
メールをやりとりしている。
一年の生駒 由梨亜には、『死の九番』を倒した事だけを報告した。
明言しなかったが、その正体について悟ったのだろう。
暗い顔で「ありがとうございました」とだけ呟いた。
今は無理でもいつか、痛みを越えて歩き出して欲しい。颯一の願いだ。
「それなりに楽しかったですよ」
「女装しておったがな」
「で、大事な話になるんですが」
やや声のトーンを落とした純に、颯一は姿勢を正した。
リンの方は、難しい事はお任せと言った風にメニューを物色。
パフェのページであれこれ悩み始める。
「向こうの時の写真とか貰えませんかね。リンちゃんのはマストとして、できれば颯一くんの方も。制服姿のやつです。可愛いポーズをしているやつがあれば、それで」
余りにバカバカしい話に、颯一は呆れるしかない。
その表情に気付いて、純が慌ててフォローを継ぎ足す。
「いや、あれですよ。個人の趣味で欲しいだけですよ。大きくプリントアウトして部屋に飾るだけですから」
「あの、純さん」
「リンちゃんの制服姿は、金輪際ないかもですから。ね、颯一くんだって、この気持ち解りますよね?」
「解りません」
「え? あ、そうだ。ほら色々と費用が掛かったので、その証明資料に添付して提出しないといけないんですよ。これならいいですよね?」
「良くないですよ。というか写真とか撮ってないんで」
送別会の時にあれこれ撮ったが、そんな事を言う必要はないはずだ。
「そんなあ」
落ち込む純だったが、はっと顔を上げる。
「まだ服ありますよね。今から撮影するとか駄目ですか?」
「駄目に決まってます」
名案を一蹴され、純がこの世の終わりみたいにうな垂れる。
「もう、しっかりしてくださいよ。純さん」
こんなのが刑事で大丈夫だろうか。
颯一は不安が拭えない。
「それにしても、ちょっと遅いですね」
いつもなら、席について数分でマスターが注文をとりに来てくれる。
十分以上経っているが、今日はまだだ。
「珍しく混んでいるからかな。リン、どう思う?」




