表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/141

エピローグ -1-

【エピローグ】


──十月六日(日)──

 

 コーヒーの甘い香りと、柔らかい午後の日差しがゆったりと空間を満たしている。

 喫茶『ハーロック』は古風な喫茶店だ。

 駅前のショッピングモール地下三階。

 奥まった場所にある、知る人ぞ知る店である。

 

 颯一とリン、純の三人はいつもの席。

 レジから最も離れた窓際に座った。

 

 日曜の午後二時。

 普段なら閑散としている店内が、今日は珍しく人が多い。

 それも店の雰囲気にそぐわない男子学生ばかりだ。

 

「解決してほっとしましたよ」

 

 薄っぺらい声で切り出したのは初瀬 純だった。

 相変わらずよれよれの紺色スーツ。

 醸し出す頼りなさは、絶対に刑事に見えない。

 

「今回は色々とありがとうございました。無事に解決できたのも、純さんのお陰ですよ」

「え? そうですかねぇ? いやいや、そう言われると照れちゃいますよぉ」

「社交辞令じゃ。愚か者」

 

 へらへらと笑う純をリンが諌める。

 

 颯一とリンは、相変わらずラフな私服だ。

 

「そうですよね。やっぱり」

 

 しゅんと肩を落とす純に、颯一はつい苦笑してしまう。

 

「詳細については、さっき渡した報告書に書かせてもらっていますが。竜脈の交差地点という稀な場所であった点と、高度な術により作り出されたキリスト像。このふたつに目を付けた偽神の仕業でした」

 

 偽神の憑代となっていたキリスト像は、戦国時代後期から鎖国中に殉教した信者の持ち物、ロザリオ等を鋳潰して作った特殊な物。

 強力な術力を秘めていた。

 この像と竜脈。当時の宣教師達があの地を、信仰の拠点にしようと考えていたのが解る。

 

「偽神って、下級の怪異なんですよね。そんなやつがここまでのことをするなんて」

「怪異にも個体差がありますからね。特に頭の回るやつでした。今後は認識を改めるべきかも知れません」

「そうですか。難しいことは良く解りませんが、報告書に書いて頂いてますよね。じゃあ、問題なしです」

 

 ややこしい事は上に丸投げである。

 

 相変わらずの態度だが、それなりに付き合いの長い颯一にとってはいつもの事だ。

 

「ところで、純さん。頼んでいた件なんですが」

 

 颯一の問いに純の表情が曇った。

 

「はい。音羽 明星さんのご家族ですが、所在を確認できませんでした。歴代の宗教担当の教師についても、ご家族や親しい人達は……」

「そうですか」

 

 個人に成り代わるというのは簡単な事ではない。

 外見を似せても、言動に注意しても、必ずボロが出る。

 それなのに今まで正体を隠し通せたというのは、何らかの仕掛けがあると睨んだのだが。

 

「かなりの人数になりますね」

 

 音羽 明星。あの優しく穏やかで生徒想いの顔の裏側に、こんなにも多くの死が隠されているなんて。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ