【05-24】
「え?」
舞が驚くのも無理はない。
この移動は主観的に何も感じない。唐突に場所が切り替わるのだ。
慌てて周囲を見回す。
隅に寄せられていた机や椅子達。
いつ、どこから持ち込んだのか布団が置かれ、颯一が横たわっている。
安らかに胸が上下しているのを見ると異常はないようだ。
「ここ、さっきの教……」
眠っている颯一を不思議に思いつつも、リンに問いかけたところで固まった。
リンの姿が子供、正確には童子姿の鬼に戻っていたからだ。
ぶかぶかになった着物がずり落ちないよう、両手で不器用に引き上げている。
「どうなったの?」
「時間切れじゃ。あの姿で行動できるのは短い間だけなのじゃ。十分も経てば、見ての通り貧弱な姿に逆戻り。滑稽なことであろ」
甲高い子供の声で、自嘲気味に告げた。
「あのさ、ひとつ聞いていい?」
理解を越えた事が次々と起こり。何が何だか解らない状況。
色々と疑問はあったが、どうしても聞かなければならない事があった。
「それだけの力をどうして隠してたの?」
リンの力はまさに圧倒的。
最初からその実力を発揮していたなら、颯一や舞があれほど危険な目に遭う事もなかっただろう。
明星だって助けられたかも知れない。
「これは奥の手故な。そう簡単に見せるわけにはいかぬのじゃ」
「だからって!」
理不尽な怒りなのは解っている。それでも感情が跳ねた。
「聞け、舞よ」
柔らかく諭すような口調と、悲しそうな表情に舞は非難を飲み込んだ。
「いいか。鬼は『鬼遣い』の術力を食らって動いておる。戦う時は勿論、こうして話している間も常にじゃ。そしてその術力の消費は、鬼の力に従い大きくなる」
リンの説明に舞が頷く。その話は聞いた事があった。
「余は鬼神と呼ばれる存在じゃ。人間が想像もできぬ力を持っておる。その気になれば、この世界全てを崩壊させるほどのな」
あらゆる場所へ瞬時に移動し、全てを飲み込むブラックホールを簡単に生み出す。
それが力の末端に過ぎないとするなら。
舞は「大袈裟な」と言えなかった。
「これほどの力を持つ鬼を、ひとりの術者の力で賄うことはできぬ。それがいかに大きな術力を秘めた術者であってもじゃ」
颯一をちらりと見やる。
「颯一は素質を持った術者であった。緑桜家の始祖、治朗ですら遠く及ばんほどのな」
緑桜 治朗。
最強の術者。数多の怪異を葬り、日本を守護したとされる稀代の英雄。
その伝説は異なる姓と、別の読みをあてた名で伝わっている。
「じゃが、その颯一の術力でも足らん。ほんの数分、余が本来の姿に戻るだけでもじゃ」
「でも、さっきまで」
「術力で足りね分は、別の物を食らっておるのじゃ」
「まさか、それって」
思い浮かんだ物に、ごくりと喉が鳴る。
「まさか、命とか言うんじゃ」
己の寿命を代償に怪異を遣う。
外法師の中にはそういう者がいると聞く。




