【05-21】
僅かに肉が付着する骸骨。
ほんの数時間前まで生命に溢れた女性は、そこまでの変貌を遂げた。
「より一層、汚らしくなったのぉ」
眉を顰めるリン。
露骨なほどに不快感を表している。
明星が地を蹴った。瞬間で、リンの前に。
骨だけになった右手を繰り出してきた。
拳の周囲の空間が陽炎のように揺らめいている。
その手がリンまで数センチの位置で止まった。
見えない壁に遮られたようだ。
「こ、これは」
リンが言葉を漏らす。
止まったはずの手が、少しずつ前に。
数ミリずつ近づいてくる。
「よもや。これほどの力があろうとは」
焦りを滲ませるリンの様子に、偽神は残った力を全て注ぎ込む。
右手の骨を塵と化しながらも、確実に押し込んでいく。
空間を歪めるほどの威力を持つ一撃。あらゆる物を破壊できるだろう。
それは強力な鬼であっても例外ではない。掠りでもすれば終わりだ。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
まだ声帯が残っていたのか。獣じみた唸りを上げる。
憑代の容量を遥かに越える力を溜め込んでの攻撃。
遠からず、この身体は壊れてしまう。
ここまでの犠牲を払わなければ、倒せない相手だった。
だが、問題はない。
この鬼の亡骸は、より強力な憑代になるはずだ。
「ま、まさか。余の力を上回るというのか」
金色の瞳が驚愕に見開かれる。
明星の手が、空間の揺らぎが、前髪に触れるほどまでに迫っていた。
「うぉぉぉぉぉ!」
勝利を確信した咆哮だった。
「というのは冗談じゃ」
冷たいひと言と共に、リンの指先が明星の拳に触れた。
直後、明星の肩口からが消し飛んだ。
衝撃に耐え切れず、明星が転がる。
「そんな、バカな」
「竜脈を利用した攻撃、なかなか興味深くはあったがな。残念じゃがのう、そんなちっぽけな力では余に及ばぬ。少なくとも」
すうっと指を上に、太陽を指し示す。
「あの星くらいの力を込めねば、余に触れることすら叶わぬぞ」
「そんなバカな。神の力を得た私が……」
「神か。神のぉ。お前は神という物の存在が解っておらんのじゃな。くくく」
くつくつと肩を揺らした。
「な、何がおかしい!」
「神とは何か。それは真理を手にした者じゃ」
「真理だと?」
「そう。この世界は十の真理で成り立っておる。少なくとも、そのひとつを手にした者。世界の根源である力を自在に扱える者。それが神と呼ばれる存在じゃ。お、ようやく見つけたぞ」
最後のは独り言だった。




