【05-20】
ぶんっと拳が空を切る。
バランスを崩して、明星が地面に転がった。
「今のは悪くなかったぞ。あと五百倍ほど速ければ、掠っていたかもしれん」
またも明星の後方。
数メートルの位置に立ったリンが告げる。
舞はただ唖然。
かなりの速度で動いたはず。だが、空気の流れすら感じなかった。
抱き上げられているにも関わらず、である。
明星が憎々しげにリンを睨みつける。
殺意のこもった視線に、意外にもリンは微笑みで応えた。
「力の差が理解できたか?」
「なんだと! 貴様!」
「そんな怖い顔をするでない。余は寛大故な、今からお前に選択権を与えてやる」
舞を丁寧に下ろし、その前に立った。
「大人しく降伏するがいい。苦しみを与えることなく一瞬で殺してやる。じゃが」
すうっと目を細めた。
「抵抗するなら容赦はせん。永遠に近い苦しみの後、死を迎えることになる。どうする?」
「答えはひとつしかない! お前をブチ殺してやるだけだ!」
「なるほど。つまり抵抗するというのじゃな。いいであろ。その無謀な心意気に免じて、機会を与えてやるとしよう」
ほっそりとした人差指を立てた。
「一分じゃ、一分だけ時間やろう」
「な! なにバカ言ってるのよ!」
痛みを押して舞が怒鳴るが、リンは意に介する様子もない。
あまりに見下された提案に、明星の顔が歪む。
「いいだろう。この神である私に、そこまでの口を叩いたこと。後悔させてくれる!」
明星が蹲って、両手を地面に付いた。
力が流れ込んでくる。
この地に蓄積されたエネルギーを吸い上げているのだ。
宣教師達がここを活動の拠点に選んだのには理由があった。
地球という惑星自体、膨大な術力を持っている。
その力はまるで血液のように地下を流れ、常に循環している。
古来から竜脈と呼ばれるエネルギーの通り道だ。
この地は数多の竜脈が交差する地点のひとつ。
世界レベルでも屈指の力に満ちた場所。
それを利用しようと考えたからだ。
身体を覆っていた服が破れ、明星の全身から血が噴出した。
身体中の皮膚が裂けたのだ。
それでもなお一層の力を集める。
蓄えた力が肉を潰し、骨を砕いていく。
「な、なんなのよ」
舞の奥歯が、がちがちと音を立てる。
明星が崩れていく。
肌が捲れ上がり、肉がぶくぶくと泡立つ。
ちぎれた血管が周囲に血を撒き散らし、露出した臓器が歪んで破裂していく。
眼球が糸を引きながら、地面に落ちた。
人間が溶けて崩壊していく。凄惨な光景。
舞は口元を押さえて顔を伏せた。




