【05-19】
もうひとつは術力に関してだ。
童子姿のリンを維持するだけでも多くの術力を必要とした。
颯一には確かに卓越した才覚があった。
しかし年端も行かない彼に、それほどの力を供給し続けるのは心身共に多大な負担。
結果、体力は常人より劣るくらいで止まり、術力も思いの他伸びなかった。
緑桜の後継者はおろか、術者としても失格。
中学卒業と同時に、緑桜家から放逐される事となった。
術者として戦い続ければ、遠からず命を落とす。
まして緑桜は名家。敵は怪異だけではないのだ。
弱い後継者が生き抜ける可能性はゼロに近い。
これらの事情を鑑みれば、緑桜家と関わりなく過ごす方が安全であろう。
それが颯志朗の判断であった。
家を追われた颯一だったが、怪異と戦う路を選んだ。
無論、放逐された自分が正当な術者として戦うのは許されない。
あくまで協力者という立場で、だ。
ちなみに颯志朗はその後、親戚筋から聡明な男子を養子として迎えた。
いくいくは、彼が緑桜を継いで行く事になるだろう。
※ ※ ※
──再び現在、九月二十日(金)──
無数の光球がリンに向かって迫る。
軌道は直列。攻撃を一点にしての突破を狙いだ。
リンの眼前、数センチの位置で次々と弾ける。
まさに鉄壁の守り。
「このままじゃまずいわ」
舞が呟いた。
防戦一方の展開。
リンはひと言も発さず、黙り込んでいる。防御に集中しているのだろう。
ならば自分が打って出るしかない。
そう考えるが、痛みで身じろぎすらできない。
リンに抱き上げられたままだ。
いつ、防御を突き抜けて攻撃が達するか。
冷たい汗が一筋、舞の頬を伝う。
「む。ちょっとぼんやりしておったな」
リンが小さく漏らした。
反射的に舞がリンを見上げる。
その動きを感じて、リンも視線を下げた。
「昔のことを思い出しておった。余と颯一が初めて会った時のことじゃ」
「ちょっと、アンタ! 状況が解ってんの!」
思わず声を荒げて、「痛たた」と身体をよじった。
「まったく何を怒っておるのやら」
大袈裟に溜息をこぼすと、前に顔を戻す。
直後、迫っていた光弾が全て散った。
「こんな攻撃では百年続けても無駄じゃぞ」
冷たいひと言に明星が呻く。
「なら、これはどうだ!」
手に光が集まっていく。
今までの約二十倍の大きさ。四十センチの光球になる。
「くらえ!」
大光球が一直線に飛ぶ。しかし、その一撃も届かなかった。
リンの身体に触れる事なく弾け跳んだ。
一瞬、視界が光で埋まる。
思わず目を細めた舞の表情が凍りついた。
直前に明星。
攻撃を目くらましに、距離を詰めていたのだ。
十分な加速を付けて、硬く握った拳を繰り出す。
速い。
舞ですら影も捉えられない速度だった。




