【01-13】
馬頭鬼が吠えながら、棍棒を横薙ぎに払う。
轟っと空気が揺れるほどの一撃が、無防備な颯一に容赦なく襲い掛かる。
寸前。
止まった。
棍棒の先端を小さな手が掴んでいた。
ほっそりとした子供の指が金属製の棍棒に食い込んでいる。
リンだ。
牛頭鬼を吹っ飛ばした後、すぐさま反転。馬頭鬼の攻撃を止めたのだ。
馬頭鬼が振り解こうと力を込めるが、棍棒はぴくりとも動かない。
「クズが調子に乗るでないわ」
ぐいとリンが棍棒を引き寄せる。
馬頭鬼が堪えきれず前につんのめった。
すかさずリンがアッパーカットの要領で拳を打ち込む。
馬頭鬼の巨体が天井まで跳ね上がった。
落ちてくるところに合わせて、リンが回転。
膝上丈のスカートが広がるのも気にせず、顔面に蹴りを放つ。
足の筋力は腕を遥かに超える。
その圧倒的な力に馬頭鬼の首は耐え切れなかった。
歪んだ馬の頭部が壁、床、天井に跳ね返りながら、渡り廊下の端まで転がっていく。
残された胴体も、体液を撒き散らしながら倒れた。
素早く振り返るリン。
牛頭鬼が駆け込んで来ていた。
唸り声を上げながら、棍棒をリンの肩口に振り下ろす。
だが、渾身の一撃ですらリンの左手に軽々と受け止められてしまう。
「ふん。図体の割りに非力じゃのう」
僅かに身を引く牛頭鬼。
圧倒的な力の差に恐怖したのかもしれない。
直後、リンの貫き手が牛頭鬼の胸元に突き刺さった。
ぐっと手首まで押し込み、そのまま下方向に走らせる。
骨が、臓器が引き千切られ、濁った青い体液が辺りに飛散した。
断末魔の叫びを最期に、己が生んだ床の体液溜まりに崩れ落ちる。
リンは油断なく視線を走らせ、他に敵がいない事を確認。
すぐさま、蹲っている颯一に近付く。
「颯一、大丈夫か!」
「攻術を連続で打とうなんて、ちょっと無茶だったよね」
なんとか立ち上がる。
しかし足元が覚束ない。ふらふらと身体が揺れた。
リンが咄嗟に支える。体格の差で胸元に潜り込む状態になった。
「すまぬ」
牛頭馬頭の体液でべったりと汚れた手。
当然、颯一のシャツにも付いてしまう。
「汚してしまった」
「それは僕の台詞だよ。ホントなら術者である僕が被るべき物なんだから。ごめんね。リンに頼ってばかりで」
「言うな。そんなことを言わないでくれ。全ては余のせいだ。余が、余さえいなければ、お前は緑桜の……」
弱々しく顔を伏せたリンの頭を、颯一の手が優しく撫でる。




