【05-18】
「じゃあ、お姉さん代わりだね」
颯一が微笑んだ。
その屈託ない表情につられて、リンの頬も緩む。
つい頷きかけるのを慌てて止めた。
「その前にじゃ、お前に言っておかねばならんことがある」
術力について颯志朗から聞いた話を簡単に伝える。
「余は力のほぼ全部を封じた。じゃが、この状態でも、颯一にかなりの負担を掛けることになる。余との誓いを反故にするのであれば……」
颯一は首を振る。
代替とは言え、失った家族を再び得たのだ。手放したくない。
そんな強い意志が見て取れた。
リンがほっと息をつく。安心した。
だが、何に対しての安心なのか。
この子に情が移ったのか?
不憫な子を見捨てられなかったのか?
この子に降りかかる忌むべき運命を回避できた事が嬉しいのか?
どうにも明確にならない。
「まあ、そのうちに答えが出るであろ。それよりもじゃ」
作務衣の懐から布片を取り出す。
幅三センチ、長さ三十センチくらいで色はエンジだ。
「颯志朗が封魔の力を込めた布じゃ。お前自身の術力を加え、余に結べ。更に力を抑えることができる」
受け取った颯一が目を閉じて精神を集中。術力を練る。
それに反応して、布がふわりと宙に浮いた。
そのままゆっくりと空中を漂って、リンの髪を首の後ろで束ねる。
リンから力が霧散した。
角がへこみ、瞳は人間と同じ形に変わる。
牙も犬歯くらいに縮んだ。
「ふむ。これならお前に負担も掛けまい」
「でも、そんな状態でリンは苦しかったりしない?」
「ん。そうじゃな」
こきこきと首を動かし、ぐっと拳を握ってみる。
「いささか非力で心許なくはあるが、別段問題はないぞ」
「じゃあ、良かったよ」
「お前が掛けた封印じゃからな。お前ならいつでも解くことができるはずじゃ。もちろん、封印が解ければ余の力が増す。さっきも言った通り、術力の消費も増え、負担が大きくなる。だから、緊急の場合以外は封印を解くでないぞ」
「うん。解ったよ。じゃあ、これからもよろしくね」
差し出した手を、リンが優しく包む。
「む。よかろう。これから余らは家族じゃ。頼れる姉に思い切り甘えるがいいであろ」
想定外の事がふたつあった。
ひとつはリン自体の問題。
怠惰な性分の彼女に、頼れる姉を演じ続けるのは無理だった。
見た目が子供というのも手伝ってか、颯一が小学校高学年になると姉弟という立場は逆転。
気ままな妹と面倒見の良い兄という関係になった。
 




