【05-17】
ぶるっと身体を震わせた。
漂っていた封魔の札が、瞬時に消し飛ぶ。
渦巻く力は圧倒的。
緑桜家当主、現代屈指の術者と謳われる颯志朗の足が無意識に数歩下がった。
リンに変化が起こったのは、その直後だった。
手足は細く、短く。身体からは丸みが失われていく。
身長も次第に縮み、顔も次第に小さく。黄金色の瞳は色が薄れて白銀に。
額の角もボリュームを減らし、犬歯も半分ほどの長さになる。
大人から子供へ。数秒で数年を遡ったよう。
「ふふふ。見たか。余に不可能などないのじゃ」
肩で息をしながら、不敵に呟く。
ぶかぶかになった着物がずり落ちないよう、両手で押さえた。
負担はかなりの物だったのだろう。額に玉のような汗が浮いている。
「このくらいの力であれば」
颯志朗ほどの術者ともなれば、怪異の力を気配から推し量る事ができる。
今のリンは正五位くらい。
卓越した『鬼遣い』であれば、どうにか扱える。
子供の颯一には厳しいが、少なくとも直ぐに衰弱死という事態は回避できただろう。
「じきに颯一も目を覚ますであろ。その前に、颯志朗よ。着る物と姿見を持って来い」
恭しく頭を下げると、颯志朗が道場から外に駆け出す。
※ ※ ※
小一時間ほど後。颯一が意識を取り戻した。
枕元に座っているのは、颯一と色違いの作務衣を着た女の子ひとり。
いや、白銀の猫眼と額の角を見る限り人間ではないのは明らか。
颯志朗には緑桜家当主としての仕事がある。
颯一が落ち着いたのを確認すると、後事はリンに託して行ってしまった。
父はいない。
周囲を見回した颯一に落胆の色が浮かぶが、直ぐに消えた。
子供ながらに、親の立場、優先しなければならない事は理解している。
視線を女の子に戻し、問う。
「ひょっとして、リン?」
容姿はまったく違うが、なんとなく雰囲気がある。
「む。まあな」
短く答えた。
どう説明するか。あれこれ考えてはいたのだが、結局考えはまとまらなかった。
颯一が気付いてくれたので、助かったというのが現実だ。
「なんか縮んじゃったね」
「色々と都合があってな。こうなってしもうた」
姿見に映った自分に呆然となった。
力を抑えつけた影響が容姿にもあるだろうとは予想していたが、まさかここまで稚児化するとは想定外だ。
「済まぬ。この見てくれでは、お前の母親代わりというのは……」




