【05-16】
「なぁにぃ?」
金色の瞳をすうっと細めた。
「良く聞こえんかった。もう一度、申してみよ」
同じ事を言えば容赦なく殺す。
その意図を感じ取り、颯志朗の喉が鳴る。
「姫君様のお力は余りに強大。颯一の、いや人間の術力で、その存在を維持できません」
「ふん。何を言う。現に余は、ここに、こうしておるではないか」
「不足する術力の代わりに、別の力を使っておるからです」
「別の力じゃと? なんじゃ、それは?」
「術者の命でございます」
「な!」
「今は呪符の効果にて力を抑制しておりますが、そう長くは持ちませぬ」
既に数枚が効力を失い、茶色に変色しつつある。
「呪符の力が切れればどうなるのじゃ?」
「急速に衰弱し、おそらくは数分で死に至るかと」
「なんとかならぬのか!」
「ですから! 誓いを反故にして頂きたいのです!」
誓いを取り消す。
つまり魂の繋ぎさえ切れば、颯一は開放されるのだ。
「それしかないのであろな」
自身を納得させるように呟きつつ、腕の中の颯一を見やる。
呼気が乱れ始めている。時間はもうない。
「解った。それより方法がないのであれば……」
言葉が止まった。
無意識の行動だったのだろう。
颯一の小さな手が、ぎゅっと手首を掴んでいた。
それに気付いた瞬間、心がごとりと動いたのだ。
「姫様! 急いで下され! もう時間が!」
「嫌じゃ」
意外な単語がこぼれた。
「駄目」でもなければ「許さぬ」でもない。子供っぽいひと言。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!」
意思を取り戻した颯一が、どう思うか。
傍にいると約束したはずの相手が、新しい母になると誓った相手が消えていたら。
またも、ひとり。
その現実が彼を深く切り裂くだろう。
心に出来た傷は治らない。徐々に腐り、いずれ外法師として堕ちていく事になる。
そして、その先に待つのは正統な術者達による粛清だ。
「余は約束したのじゃ!」
「しかし」
「黙っておれ! 状況は解っておる! であれば! 次善の手を打つだけじゃ!」
反論を押し込むと、左手で髪を一本引き抜く。
床に落とすと柔らかい布団になった。
颯志朗が目を見開く。
物質を変換する術は存在する。しかし変成には長い時間と膨大な術力が必要となる。
何気ない動きで、いとも簡単に物を作り出す。
鈴鳴りの姫、最強と言われる鬼の力の一端を見せつけられた。
颯一をそっと寝かし、リンは颯志朗に告げる。
「余の力が大き過ぎるのが問題なじゃ。ならば、こうすればよいのじゃ」




