【05-13】
「不憫じゃの」
随分と背伸びしている感じはあるが、まだ子供。
これからの成長に親の愛は必要不可欠。
それを失ったのは余りに残酷な現実だ。
しかし、それ以上に気になる事もあった。
「で、颯一よ。余に叔父を、肉親を殺せと申すのじゃな?」
もう一度、念を押す。
「肉親なんかじゃない。母さんと姉さんの仇だ」
「危ういの」
私怨を優先するのは術者にとって、最も危険な行為だ。
いずれは感情に流され、力を振るい破滅に向かっていく。
現にこの幼子も憎悪に心を燃やし、恨みだけで動いている。
既に路を踏み外しかけている。その表現は決して過言ではない。
「こうして余が呼ばれたのも、何かの縁かものお」
ふむっと意を決して、立ち上がる。
「颯一よ。余がお前の命を聞かぬ場合はどうする?」
「鬼は呼び出した者の命令に逆らえないはずだ」
「並の鬼ならそうであろう。じゃが、余は違う。人間の使う術なぞ通じぬ」
最強の鬼と呼ばれる所以は伊達ではない。
当惑しつつも颯一は。
「ならしょうがない。別の鬼を呼び出す」
「やはり、そうくるか。では、こういうのはどうじゃ? 復讐はしてやれぬが、余がお前の母になってやってもいいぞ?」
予想を遥かに越えた提案に、颯一が驚きを露にする。
「常にお前の傍におり、お前と共に過ごしてやる。どうじゃ、悪くない話であろ?」
「そ、それは、でも、仇が……」
決意が揺れ、動揺が滲む。
だが、今まで颯一を支えていた物が、そんなに簡単に折れるはずがない。
そこで卑怯と解りつつも、もう一手。
「呼び出した鬼に仇を討ってもらって、お前は満足なのか? それでお前の恨みは晴らせるのか? 違うであろ。復讐であれば、お前自身の手で成すべきではないのか?」
颯一が息を飲んだ。
今まで考えた事もない話だった。
「でも! でも、僕にそんな力は……」
「無論。今のお前にそれほどの力はあるまい。じゃが、お前は余を、最強の鬼である余を呼び出せたのじゃ。数年後には誰よりも強い術者になれる。絶対にの」
「強くなって、僕が自分の手で、復讐を果たす」
「それでこそ、母や姉も喜ぶというものじゃ」
復讐は正しくない。人を恨んでも何も解決しない。
そんな安っぽい口先の倫理で、子供の純粋な感情には勝てるはずがない。
だから、あえて復讐心を煽った。




