【05-12】
「で、童よ。名はなんと申す? 歳はいくつじゃ」
「緑桜 颯一。六歳だ」
生意気に胸を張った。
そんな背伸びした仕草が愛らしい。
「ふむ。颯一か。良い名じゃ。しかも、なかなか利発そうであるな。余のことは知っておるな?」
「鬼だ。緑桜に伝わる術で呼び出せる、一番強い鬼だと聞いている」
「む。それは間違っておらぬが、余の名は知らぬのか?」
「鬼にも名前があるくらいは知っている」
しばしの間があった。
「知らぬのか。まあ、無理もないであろな。長い間眠っておったようじゃし」
気を取り直して。
「余は鈴鳴りの姫じゃ。緑桜家の守護を担う約束となっておる」
「すずりな……ひめ?」
聞き慣れない単語に首を傾げた。
「童にはちとややこしい名かの。そうじゃな。では、余のことはリンと呼ぶがいい」
鈴は「りん」と読めるし、鈴の音色である「リン」とも繋がる。
しかも短く、響きも悪くない。
「リン」
「むふ。なかなかに、こそばゆいのぉ。で、颯一よ。余に何の用じゃ?」
「殺して欲しい相手がいる」
「なんじゃと?」
こんな子供が口にするには、あまりに物騒な言葉。
表情が険しくなる。
「僕の母さんと姉さんは殺された。だから敵をとるんだ」
暗い情念が、その幼い瞳にちらちらと燃えた。
「母と姉が殺されたと申したな。相手は解っておるのか?」
「犯人は、叔父だ」
「なるほどな。家督争いに巻き込まれたか」
名門の緑桜は大きな力を持つ。
伝わる術は無論、代々培ってきた人脈。そしてそこから生まれる金や権力。
緑桜の家名は、肉親を殺めてでも手に入れる価値のある物なのだ。
「これで合点がいったな」
六歳の子供が難解な書を解読し、『鈴鳴りの姫』の招請にまで辿り着く。
その道程は多大な才覚だけでは進めない。
文字通り、死に物狂いの努力があったのだろう。
その原動力になったのが復讐心。残酷な現実だ。
「父はどうした? 他に兄弟はおらんのか?」
「兄弟はいない。父さんも……いない。緑桜の当主は父さんになれない」
「そうか。お前の父である前に、緑桜の当主でなければならんか」
現当主とそのひとり息子。
それは親子というより、師と弟子という関係に近いはず。
愛情を隠し、厳しく接していると想像がつく。




