表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/141

【05-11】

 

                    ※ ※ ※

 

 

──十年前──

 

 ゆっくりと目を開いた。

 

 全体的に薄暗かった。足元、床は板張りで丁寧に磨き上げられている。

 だだっ広い。二十畳を越える部屋。

 武技や術を鍛錬する道場なのだろう。

 

 大きく息を吐いた。

 呼気が白い。かなり冷え込んでいる。

 

 首を動かすと、ぐききと骨が軋んだ。ふわわっと気だるい欠伸が出る。

 身を包む豪奢な着物が擦れ、微かな音を立てた。

 

「むぅ。余を呼び出したのは誰じゃ?」

 

 平坦な声で告げながら、のんびりと周囲を見回す。

 

「僕だ!」

「んぁ?」

 

 随分と低いところから返事があった。視線を落とすと子供がひとり。

 藍色の作務衣を着た。短髪の男の子。

 柔らかそうな頬は、健康的な色をしている。顔立ちは愛らしい。

 

「可愛い童じゃのう。おんなごであれば、麗しく育ったであろな」

 

 手を伸ばし、頭を撫でた。

 鋭い爪が触れぬように、細心の注意を払いながらだ。

 

「僕だ。僕が呼んだ」

「解った解った。ちょっと静かにしておるのじゃぞ」

 

 優しく告げると、声のボリュームを上げる

 

「余は寛大じゃが、下らぬ冗談の類を好まぬ。姿を見せぬというのであれば、それなりの覚悟があると見なすがよいのじゃな?」

 

 しかし、返事はない。

 そもそも他に人の気配すらないのだ。

 

「むう。どういうことじゃ。寝ぼけて出てきてしもうたか」

 

 優美な眉を顰めた。

 怠惰な性格である事は解っている。

 ゆるゆると寝ていられるのであれば、いつまでも眠り続けてしまう性分だ。

 

「呼んだのは僕だ!」

 

 三度目の主張。

 まさかと思いつつも、床に膝をついて視線を合わせた。

 

「童よ。本当にお前が呼んだというのか? どうにも信じられぬが」

「本当だ。僕が呼んだ」

 

 男の子は手にしたノートを、どうだとばかりに突きつけた。

 子供らしい大きな平仮名が並んでいる。

 

「む。確かに余の招請ではあるな。じゃが、こんな童がまさか。いや待てよ。この力は」

 

 小さな身体から溢れる呪力を感じる。

 これほどの力は万人にひとりもいない。

 

「治朗に勝るとも劣らぬ。いや、歳を考えればそれ以上の才覚かも知れぬな。まあよい。こんな童に呼ばれるというのも粋なものじゃ」

 

 あまり物事を深く考えないで先に話を進める。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ