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【05-10】

「下等な化け物ごときが、随分と無礼な口を利きよるな。余は弱者に対し、非常に寛大ではあるが、何事にも限度というものがある」

「弱者だと! 神であるこの私に!」

「喚くな。耳障りであろ。とは言えじゃ、相手の名も知らぬまま殺されるのは、いささか不憫ではあるな。いいであろ。余のことは姫君様と呼ぶがいい」

「なんだと?」

「鈴鳴り(すずなり)の姫。それが余の名じゃ」

 

 舞が驚愕を露にしつつ、自分を抱き上げている鬼を見やる。

 

『鈴鳴りの姫』。

 それは術者にとって、最も忌むべき怪異の名前。

 

 遥か昔、貴族達が政を執っていた頃の事である。

 生駒の山中に一匹の雌鬼が棲みついた。

 その鬼は凶悪にして血を好み、近隣住民を恐怖に叩き込んだ。

 被害は次第に大きくなり、時の帝の耳にも入る。

 

 帝は即座に討伐令を発する。

 それに応え、全国から腕利きの術者が集まった。その数は三百を越える。

 当時一流と言われる術者全員が参加したと言えるほどの戦力だった。

 討伐は成功。しかし被害は多く、参加した三百人のうち、生きて帰った者は十名にも満たない有様だった。

 被害の甚大さに、帝は雌鬼について書き残す事を禁じた。その存在を記すだけで災厄があると信じたのだ。

 結果、雌鬼については、術家で口伝されている物が全てになっている。

 

 その雌鬼は人の頭ほどもある大きな鈴を左右の手に持ち、それを鳴らす事で神通力を発揮したと言われている。

 そのため、『鈴鳴りの鬼』あるいは『鈴鳴りの姫』と呼ばれた。

 

「ありえないわ」

 

 舞が呟く。

 

『鬼斬り』にも、『鈴鳴りの姫』について伝わっている。

 それよると身の丈は一丈、つまり約三メートル。筋骨隆々たる醜女だとされている。

 目の前、『自称鈴鳴りの姫』は身長が約半分。加えて実に女性らしい身体つき。

 武器とされる鈴も持っていない。しかも腹立たしい事に。

 

「悔しいけど、ちょっと美人だし」

 

 人間とは明らかに違う部分も多いが、同じ女性でもそう感じてしまう。

 

 疑念に満ちた舞の視線に気付いたリンが、「酷い話が伝わってそうじゃな」とうんざり顔になる。

 

「見え透いた嘘よ。そもそも緑桜家所縁の者が、『鈴鳴りの姫』と行動を共にしているはずがないわ。だって」

 

 そもそも最大のポイントはそこだ。

 

「だって、『鈴鳴りの姫』を封印した術者こそ、緑桜家の始祖。緑桜はざくら 治朗はるあきでしょ」



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