【01-12】
「こんな雑魚二匹くらい、物の数ではない。物の数ではないが」
そう言いつつも、リンが舌打ちする。
「挟まれたのは失態じゃ」
「馬頭鬼の方は僕に任せて」
リンと背中合わせの形で、馬頭鬼と正対するように立つ。
「颯一、余を開放するのだ。こんなゴミ共、一呼吸の内にバラしてやる」
「ダメだよ。ここで手の内を使い切ったら……」
牛頭鬼が動いた。
棍棒を振り上げると、リン達の方に猛然と突っ込んできた。
馬頭鬼も距離を詰めてくる。
二体とも鈍重そうな外見から想像できないほどに速い。
リンが牛頭鬼を迎え撃つべく駆け寄る。
颯一は少し下がりつつ、スカートのポケットから白と黒の玉を取り出した。
三センチ直径くらいの小さな物だ。
リンが間合いに入った瞬間、牛頭鬼が棍棒を叩きつける。
怪力が生み出す一撃は、瞬きすら許さないほどの速度だった。
リンは身体を軽く捻って牛頭鬼の攻撃を避ける。と、次の攻撃が繰り出される前に踏み込む。
そのまま硬く握った拳を繰り出した。
体重を乗せた理想的なストレートパンチが牛頭鬼の腹部に命中。
直後、牛頭鬼の巨体が真後ろに跳ねた。
渡り廊下を一気に端まで。背中から壁に叩きつけられる。
校舎が大きく揺れた。
「む。やはりこの状態では非力だな」
リンが愚痴る。
あれほどの力を振ったにもかかわず、だ。
一方の颯一は棍棒を振り上げる馬頭鬼に右手を突き出した。
その動作に合わせて、白黒の玉が動く。
互いに螺旋を描きながら、馬頭鬼の身体を直撃。
馬頭鬼が二歩、三歩と後退した。
その隙に颯一が目を閉じた。瞬間的に意識を集中させたのだ。
馬頭鬼を弾いた後、空中に漂っていた白黒の玉が淡い光に包まれる。
「緑桜流鬼爪牙!」
大きく腕を払う動作と共に叫びを添える。
白黒が飛んだ。
今度は一直線。馬頭鬼の分厚い胸板と腹部を深々と切り裂く。
体色に近い赤茶けた体液が周囲に散った。
しかし、馬頭鬼は倒れなかった。逆に進んできた。
予想以上の耐久力に驚きつつも、すぐさま次の術を繰り出そうとするが。
「くっ」
胸元に激痛が走り、膝から力が抜けた。
馬頭鬼の前で蹲る形になってしまう。
「兄上!」
「兄さん!」
白黒の玉が大きく弧を描き、馬頭鬼の頭に迫る。
だが、先ほどの二回の攻撃に比べ遅い。三分の一ほど。
その速度では、馬頭鬼の防御を掻い潜る事はできなかった。
豪腕に叩き落され、廊下にめり込んだ。




