【05-07】
身体能力を数倍に高める丸薬。
服用する数を増やせば、その効果は加速度的に上昇する。だが、肉体的な負担も大きい。
三つが舞の限界ギリギリ。
行動時間も短くなる。持って五分。その後は呼吸すらも苦しいだろう。
校舎の北端まで来ると、スマートフォンで様子を再確認。
明星はグラウンド中央から、南に進んだところ。
今の脚力なら五秒もあれば釣りがある。
ふと明星が足を止めた。
その視線は進行方向。南を凝視している。
牛頭馬頭達が突撃を開始したのだろう。
舞も動く。
スマートフォンを置くと、一呼吸にも満たない間にグラウンドに出る。
光の刃が三体をバラバラに斬り裂いていた。
残された半数が怯んだ様子も見せず、吠えながら明星に迫っていく。
舞は身体を低くして加速。
音もなく、それでいて風よりも早く。
更なる光が踊った。
残った三体の鬼達を瞬く間に肉片へと変えていく。
しかし。
舞が間合いに入った。
息を止めると短刀を繰り出す。狙うは背の中央。
余計な力も込めず、速さだけを重視した必殺の攻撃。
最短距離を進む刺突だ。
明星は振り返る気配すらない。否、振り返ったとしても遅い。
確実に仕留めた。舞は勝利を確信した。
舞の視界の隅で、何かが光る。
突如、明星の細い背中が真っ赤に染まった。
舞が目を見開いた。
その瞳に、くるくると宙で弧を描く青い刀身、降魔刀『断ち風』が映る。
手は柄をしっかりと握ったままだ。
手首を飛ばされた。
舞の思考が追いついた時には、次の一撃が右腕を肘から切断していた。
奇襲は失敗。だが、終われない。
仕留め損なったなら、少しでも時間を稼がなければ。
距離を取ろうとして、バランスが崩れた。地面に倒れてしまう。
左手をついて身体を上げたところで、動きが止まる。
目の前に立っていたのだ。腿の中ほどから残された。自分の両足が!
悲鳴の欠片も上げられなかった。
圧倒的絶望の前には、何もかもが抜け落ちてしまう。
「もうひとりのガキはどうした?」
左腕一本という無惨な状態の舞を、見下ろしながら尋ねた。
「逃げたのか。くく、お前よりは幾らか懸命だな」
降魔刀『断ち風』を拾い上げる。
まだ柄を掴んでいる手首を外し、握り潰した。
「偉大なる神に歯向かったことを後悔しながら、ゆっくりと最期を迎えるがいい」
くつくつと笑う明星を、舞が睨みつける。
「ふざけないでよ。下級の化け物が、気取ってんじゃないわよ。借り物の力に酔ってるだけのくせに。神? ふざけないで、アンタなんて、ただのクズ……」
言葉が止まる。
胸元に深々と短刀が刺さっていた。明星が投げつけたのだ。




