【05-06】
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西校舎裏。
舞は制服を脱ぎ捨て下着姿になると、通学鞄の底に隠していた戦闘装束を取り出した。
素材は秘伝の製法で作られる極限まで軽量化された布。
畳めば薄く邪魔にならず、それでいて防刃効果も高い。
デザイン的には、スピードスケートの選手が着用するような密着タイプのウエア。
風の抵抗を極限まで抑えるように計算されている。
手際よく着込み、フードに髪をしまう。
次にスマートフォンを操作。グラウンドの様子がディスプレイに映った。
校舎のあちこちに、小型カメラを仕込んであるのだ。
西校舎裏のチャペルから校庭に出た明星は門に向かっている。
歪んだ足を引きずるせいか歩みはかなり遅い。
「彼の言った通りね」
敵には致命的弱点がある。
逃げられた理由を尋ねる舞に、颯一は説明してくれた。
金属製のキリスト像に比べ、人体の骨や肉は弱い。加速や力には耐えられない。また防御力も低い。
降魔刀であれば、易々と切断できるだろう。
問題は短刀の間合いまで、どうやって近づくか、だ。
青と赤の紙札を撒いた。
札は地面に付くと同時に膨れ上がり。巨大な化物に変わる。
青い肌に牛の頭を持つ牛頭鬼と、赤い体色で頭部が馬の馬頭鬼だ。
それぞれ三体ずつの計六体。
ひとりで行動する舞の為に、実家が用意してくれた簡易召還できる鬼達である。
「あんた達は門側から突撃。敵の気を引いて。後方から回り込んで私が仕留める」
鬼達はどんな命令にも絶対服従。首肯して了承を表す。
「ごめん。これしかないのよ」
小さく頭を下げた。そこそこ役立つ道具。以前はそのくらいにしか考えてなかった。
でも、今は想いが変わっている。
「絶対に仕留める。だから、ごめん」
牛頭鬼の一頭が低く唸った。
手にした無骨な棍棒を頭上に高々と掲げる。
他の牛頭馬頭も、それに倣って武器を振り上げた。
何を伝えたいのか、漠然とだが舞には解った気がした。
力強く頷いて応える。
牛頭達が巨体を揺らしながら、鬼達が南門の方に進んでいく。
舞も反転。校舎の北側に。
予定通り牛頭馬頭達と挟撃を狙う。
愛用の短刀、降魔刀『断ち風』の柄から丸薬を三つ、口に入れた。
ごくりと飲み込む。
鼓動が急激に早くなる。体中で筋肉が熱を持ち、骨が軋む。
視界が薄い赤に染まる。耳鳴りがぐわんぐわんと。頭痛も酷い。
明らかに過剰摂取の症状だ。
「こうでもしないと勝機がないんだから」
自身の身体に言い聞かせる。肉体的には正五位まで上がっているはず。




