【05-04】
「うん。絶対に勝つ」
即答だった。迷いは欠片もない。
「そう、解ったわ。任せて」
ふうっと息をついて微笑んだ。
「でも、私にだって奥の手くらいあるのよ。一分も掛からずに倒しちゃうわ」
「ありがとう。その、なんて言えばいいのか……」
「そんなことより、終わったら私にもパフェ奢ってよね。できれば、その」
くるりと背中を向けながら。「ふたりだけで食べに」と小声で継ぎ足す。
「ごめん。最後の方が聞き取れなかったんだけど」
「いいの。とりあえずパフェよ、パフェ。パフェだらからね。解ったわね」
パフェを連呼すると返事も待たずに駆け出した。
あっという間に行ってしまう。
残された颯一がリンの方を向いた。
「じゃあ、僕らも準備しよう」
リンが立ち上がる。
身体は動けるくらいには回復しているが、様子は不機嫌そのもの。
「リン、怒ってるの?」
「ん。まあな」
「気持ちは解るけど、僕らに残された手は……」
「違う。余が許せんのは余自身じゃ。あの像を粉々に潰しておけば、こんなことにはならんかった。その迂闊さが許せん」
「こんな展開になるなんて、誰にも予想できないよ。それよりも急ごう」
ポケットからチョークを出して、床にいくつもの円を描き始める。
「済まぬ。颯一にとって余は……」
「リンは僕にとって、大切な家族であり、大切なパートナーだよ。リンがいなかったら、僕はとっくに殺されていたよ。道を踏み外した外法師としてね」
「そう、かもしれぬな」
「だから、僕はリンに感謝しているんだ」
「それは余の台詞じゃ。お前の言葉は、余に希望をくれる」
「大袈裟だな。さ、真ん中に」
床に描いた線は、組み合わさりって複雑な紋様となっていた。
重なり合う円の中、唯一空いたスペースにリンが入った。
「瑞、翔」
二匹の小鬼は白黒の玉に変わると、リンの周囲をふわふわと漂う。
「じゃあ、いくよ」
リンの正面に立って、目を閉じた。
己の持つ術力を極限まで練り上げる。
颯一の呪力に呼応して、床の紋様がぼんやりと淡い光を放ち始めた。
颯一が使ったのは、ただのチョークではない。
結界用の顔料を固めた緑桜家秘伝の品。術力を蓄え循環させる事ができる。
颯一の身体は、大きな術力の使用に耐え切れない。その弱点を補う為の工夫だった。
負担が掛からない程度に、少しずつ術力を放出。
紋様の中に蓄積させる。
術の発動に必要な力が堪るまでひたすら続けるのだ。




