【05-03】
会話している間に右手は回復しつつあった。
左腕も手首近くまで骨が伸び、骨と血管が巻きついていく。
「兄上!」
小鬼姿の瑞と翔が廊下から駆け込んできた。
「あいつがグラウンドまで出てきやした」
「そのまま、校外に向かうと思われまする」
颯一が時計を見た。もう直ぐ八時。
誰も登校していないのを知って動き出したのかもしれない。
「あいつを外に出すわけにはいかない。僕らで倒すしかない」
「無理よ!」
舞が悲鳴に近い声を上げる。
力の差は絶対。ここまで逃げれただけでも僥倖だ。
「増援を待つべきだわ」
「大丈夫。まだ奥の手がある」
「バカを言うでない!」
リンが慌てて身体を起こした。
今までにないほど感情を高ぶらせている。
「舞が正解であろが! ここは待つべきなのじゃ!」
「僕らが待っている間に、多くの犠牲が出る」
「それは、そうだけど」
舞の言葉が揺れる。
『鬼斬り』としての本分より、恐怖心を優先してしまった。
「戦いに犠牲は付き物じゃ! 感情に流されるでないわ!」
「僕は助けられる命を見捨てたくない」
「颯一! 甘いことを言うな!」
怒鳴るリンを無視して、颯一は舞の方に顔を移す。
いつにない真剣な眼差しに、舞は自然と背筋を伸ばした。
「瑞穂さん、僕は今からとても酷いことを頼む」
こくりと頷く。
「少し時間が必要なんだ。五分、いや、三分でいい。あいつを足止めして欲しい」
圧倒的な力を誇る敵に、舞ひとりで当たる。
その結果は火を見るより明らか。
死んでくれと言っているのと同意だ。
ごくりと舞の喉が鳴った。
血の気が引いていくのを感じる。
颯一はただ舞を見つめ、反応を待っていた。
決して目を逸らそうとはしない。
どんな非難も受けるという強い意思が浮かんでいた。
「ひとつだけ確認させて」
緊張で声が掠れた。
「あいつに勝てる見込みはあるの?」




