【05-02】
「解りやすく生命力って言ってるけど、実際は違うんだよ。その存在自体が物理的に破壊できないって言うべきかもしれない」
要領を得ない説明に舞が首を捻る。
「ごめん。解りにくいよね。つまり、強力な鬼は絶対に死なないってことなんだ」
リンの頭部を優しく抱え上げた。
丁寧な扱いから、颯一のリンへの感情が垣間見える。
「鬼の回復は肉体の中心である心臓と、思考の中心である脳が優先される」
「どういうこと?」
「全身が破壊されたら、脳と心臓から再生されるんだ」
「あ、そういう意味ね」
「脳と心臓の片方が残っていたら、そこから回復する。心臓が残っている場合なら、胴体から首が生えてくる。逆に頭だけ無事なら、そこから全身が回復する」
「うん。そこまでは理解できたわ」
「じゃあ、ここで問題だよ。首を斬り落とされた場合はどうなると思う? 心臓のある胴体から頭部が再生するのか? 脳が残っている頭から胴体ができるのか?」
「え?」
どっちが正解なのか。まさかふたりになるとか。
「正解はね」
颯一がリンの傍らにしゃがみこんだ。
首部分にそっと頭を付ける。
「どっちも回復しないんだ。身体と頭が徐々に回復して終わり。つまり頭と身体を切り離せば、鬼の行動は止まる。伝承や民話の鬼退治で、最後に首を斬り落とすのはそういうわけなんだよ」
想像もしていなかった答えに、舞は唖然とするばかりだった。
「そして、離れた首を胴体に戻せば」
「ううぅ」
うめき声がリンの口から漏れた。
中空を睨んでいた目が、二度三度と瞬き。
瞳に生気が宿る。
「ぐおうあぁ!」
直後、悲鳴と共に身体をよじった。
「そ、颯一。何ゆえ身体が回復する前に戻したのじゃ。痛くてたまらんではないか!」
颯一がちらりと舞を見やる。
「わ、私のせいだって言うの?」
「話を聞いてくれる雰囲気じゃなかったし」
「だって、それは、その……」
弱々しい反論をため息に置き換えた。「ごめん。誤解してた」と大人しく頭を下げる。
「じゃあ、一件落着だね」
「全然、落着しておらんわ! うぅ、喚くだけで、あちこちが痛む。いたた」
「ごめん。帰ったらパフェを奢ってあげるから」
「みっつじゃ。ひとつやふたつでは、許さんからな!」




