【04-19】
飛び散る飛沫を避けながら、颯一が咄嗟に距離を取る。
「颯一!」
すぐさま、リンが颯一の前に立った。
倒れて痙攣している明星。
その向こうに、辛うじて原型を留めているキリスト像の左拳が見えた。
人差し指で瓦礫の破片を飛ばしたのが解る形で止まっている。
すぐさまリンが重力で破壊し、颯一を下から覗き込む。
「颯一、大丈夫か? 怪我はないか?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
心配を溢れさせるリンに、颯一は微笑んだ。
「往生際の悪いやつ。狙いは外れたみたいだったけど」
舞も安心しきっていた迂闊さを噛み締める。
「違う。あいつは先生を狙っていた。絶対に理由があるはずなんだ」
「理由って?」
「理由じゃと?」
リンと舞、ふたりの質問に即答できなかった。
口元に手を当てて考える。
憑代で残っていたのは左手だけ。
恐らく残されたすべての力を使って、明星を殺害した。何の為に?
リンが破壊した時、手は動いてなかった。
ひょっとして別の憑代に移ったのか?
周囲に視線を走らせる。
あのキリスト像ほど強力な憑代が、他にもあるなんて考えられない。
普通なら、あのまま僕らをやり過ごそうとするはずだ。
自分の存在を悟られてまで、明星を殺してどうするつもりだったのだろう?
「まさか」
ある可能性に行き着いた。
偽神は、物に取り憑く。
生きている物、動物や人間を憑代にはできない。
偽神は、物に取り憑く。
あの行動がキリスト像以上の憑代を作る為だったとしたら。
偽神は、物に取り憑く。
死んだ人間は人じゃない。人の形をした肉の塊だ。
「まさか」
颯一の予想を肯定するように、明星がゆっくりと身体を起こした。




