【04-18】
「さてと」
転がっているキリストの頭部に、リンが無造作に足を乗せた。
「余を楽しませてくれた礼に、蹴鞠代わりに持ち帰ってやりたいところじゃが」
ピシっと亀裂が走る。
「生憎、余は貴族のたしなみとやらが嫌いでな」
粉々に砕け散った。
同時に残った胴体も吹き飛ばす。
舞がふうっ息をつく。
喉に詰まっていた息をようやく吐き出せた。
「ごめん。瑞穂さんを囮にするような真似をして」
歩み寄ってきた颯一が深々と頭を下げる。
「あいつの足を止めるには、勝ちを意識させて、油断させるしかなかったんだ」
「あ、ううん。私も作戦の予想はできてたから」
自分の一手先を考えていた颯一に対し、ちょっと見栄を張ってみる。
「言いおるの。術を撃った後、仕留めたと言わんばかりの顔をしておったではないか」
「よ、余計なことは言わないで。それより大丈夫なの? 随分と痛めつけられたけど」
「余は鬼じゃ。頭と胴がくっついておる限り問題ない」
「噂には聞いていたけど、鬼って凄いのね。ゴキブリみたい」
白黒の玉がふわふわと浮き上がる。
「いやいや、ゴキブリだって身体を潰したら死にやすから」
「ゴキブリは酷かろう。姐上は上位の鬼であられるのだ」
「そうじゃ。余は智と美と力。全てを兼ね備えた完璧な存在なのじゃ」
「ふうん。最近の完璧って随分とハードルが低いのね」
「どういう意味じゃ?」
「まあ、話はそれくらいにして」
極度の緊張状態から弛緩。
軽口を交わすくらい緩んだ空気を、颯一がやんわりと引き締める。
「後は先生だけど」
全員の視線が、座り込んでいる明星に移動する。
明星はまさに茫然自失。
力なく中空を見つめ、「父よ。父よ」と繰り返している。
「ん。さっさと殺しておくか。余に任せておけい」
「リン、待って。これ以上の抵抗がないなら、警察に引き渡そう」
舞も颯一の提案に頷く。
「好きにするがいい。余は颯一の決定に従うだけじゃ」
「うん。ありがとう」
颯一が踵を返した。「先生」と呼びかけながら、歩を進める。
近づいてくる颯一に気付いたのか。緩慢な動きで顔を向ける。
その瞬間、額から上、左半分が弾けた。




