【04-16】
「ぬ!」
慌てて振り返るリンの胸を蹴り飛ばした。
胸骨と肋骨が砕け、胴体が歪む。
「おのれぃ! ちょろちょろと!」
それでもリンは倒れない。
ふらふらと下がりながらも、腕を薙ぐように払った。
その動きに沿って、礼拝席が微塵に散る。
キリスト像はその破壊に巻き込まれない距離を取っていた。
「やはりお前の力は重力か」
確信に満ちた様子だった。
「鬼よ。お前は自分を中心に数十センチ範囲の重力を操れるのだな。そして、その力を手に集約することで、射程を延ばすことができる」
それを聞いて、舞はリンと戦った時の事を思い出した。
逃げた自分を引き寄せたの謎の力は、重力だったのだ。
断ち風・嵐散を弾かれたのも、リンが周囲の重力を高めて叩き落したに違いない。
「何を喜んでおるのじゃ?」
リンがにぃっと牙を覗かせる。
「余がお主を捻り潰すことに変わりはあるまい」
虚しい強がり。舞はそう感じた。
絶対的な速度差がある。リンでは追いつかない。
加えて防御も無理。少々の重力など、歯牙にも掛けず攻撃してくるだろう。
「だからって」
だからと言って諦めるわけにはいかない。
自分は鬼斬りだ。
怪を絶ち、魔を滅し、鬼を斬る。鬼斬りなのだ。
ぐっと短刀を握り締めた。
相手は自分や颯一の存在を忘れている。いや、気にもしていないのだろう。
その驕りが隙だ。
命を捨てて斬りかかれば、一瞬でもリンから注意を逸らすくらいは可能なはず。
それで十分だ。
動きを気取られないように断ち風の柄を捻った。
丸薬が手に落ちる
「姉さん、自暴自棄はいかんでやんすよ」
耳元で囁かれて驚いた。
ちらりと視線を向けると、肩に黒い玉が乗っている。
「兄さんからの伝言でやんす。術力を練って、合図をしたら必殺技を撃て欲しいってことでやんすよ」
「え? 断ち風のこと?」
「名前は知らんでやんすよ。ま、兄さんに任せておけば大丈夫でやんすから」
そう残すと、音もなく地面に落ちた。
ゆっくりと颯一の方に転がっていく。
「こんな絶望的な状況なのに、どんな手があるってのよ」
言いつつも術力を練り始める。
できれば数十秒は時間が欲しい。
「どうやら悔い改める気はないようだな」
キリスト像が小さく首を振った。
「では、終わらせるとしよう」
「下らない話でなんとか時間を稼げたみたいだね」
キリスト像が颯一の方に顔を移動させた。




