【04-14】
「無駄ですよ。隈野さんやソフト部の人達みたいに操ることはできません。彼女は特殊な訓練を受けていますから」
颯一だ。
リンに助けられながら、身体を起こしたところだった。
機先を制された形になって、明星がじりじりと後ろに下がる。
「先生の力は凄いと思います。術者としての才覚は、僕よりも遥かに優れています」
学院の中を把握し、多くの怪異を使役する。
また、人の自我を奪ったり、怨霊鬼を生み出す事もできる。
正式な術を学んでもいないのに、である。
「でも、僕達は術者の家系に生まれ、修練を積んできました。どれほど才覚を持った相手でも、我流の術者ごときに遅れはとりません。もう終わりです」
言い切った。
最後の降伏勧告。まだ抵抗するなら、容赦なく術を撃つつもりだ。
「手を汚すのは余の役目じゃ。お前は下がっておれ」
颯一の意図を悟ったリンが小声で告げる。
反論を許さない強い意志がこもっていた。
明星ががっくりと膝をついた。
両手を組んで天を仰ぐ。
「私は、ただ学院のことを、生徒のことだけを考えてきただけなのに。父よ。どうして、私を見捨てるのですか。父よ。教えてください。私に誤りがあったのでしょうか」
不意にチャペルの空気が変わった。
湿度が上がったような。ねっとり纏わりつくような。
えも言われぬ不快な感じだった。
「油断するでないぞ。どうやらお出ましのようじゃ」
リンの警告に、颯一達が無言で説明を求める。
「才覚があっても素人に、ここまでのことができるものか。後ろで糸を引いている者がおるのだ」
はっと舞が息を飲んだ。
颯一も驚かずにはいられなかった。
動き出したのだ。
ぎぎぎっと軋んだ音を上げながら、ゆっくりと。
チャペルの正面中央。
十字架に掛かったキリスト像が。
※ ※ ※
床に足をついた。
こうして立つと見上げるほどに大きい。三メートル以上ある。
「このような奇跡が! をを! 父よ!」
明星が歓喜の声を上げた。
「神に仇なす愚か者共め。その怒りに触れるがよい」
キリスト像の口が動き、重々しい声で告げる。
「ふん。随分と大きく出た物じゃな。いいであろ。余が捻り潰してくれる」
進み出ようとするリンが目を見開く。
踏み出すよりも早くキリスト像が眼前まで移動。
腕を振り下ろしてきた。
咄嗟に左腕でガードする。
が、キリスト像の拳は前腕部を圧し折り、そのまま頭を打ち抜いた。
頭蓋骨が砕け、首があり得ない方向に曲がる。




