【04-13】
※ ※ ※
颯一の直ぐそばの壁が吹き飛んだ。
濛々と舞い上がる土埃を押しのけ、小柄な影がチャペルに入ってきた。
赤髪は波打つように広がり、口からは鋭い牙が覗く。
額に生えた黒い角と、銀色に輝く猫眼。
ほっそりとした指先には鋭い爪が並んでいる。
誰もが心胆を寒からしめる容姿だ。
「ど、どうして?」
「外まで来ておった」
明星が無意識にこぼした問いに、リンがひと言で答えた。
『死の九番』が仕掛けてきた場合、颯一は逃げるしかない。
無論、『死の九番』はそれを阻む。必ずドアから遠のけられる状況になるだろう。
最も遠いのはチャペルの正面だが、そこには『死の九番』である明星が立っているはずだ。
となれば、次に入り口から遠いのは、向かって右側。
そこまで移動した時点でリンの封印を解く。
解呪の射程は半径二メートル。壁の外でも十分に届く。
後は壁を破壊して、踏み込むだけだ。
颯一の想定通り。
唯一の誤算は、空気弾で弾き飛ばされたところだった。
「む」
床に倒れている颯一を一瞥、声から温度が失せる。
「余の颯一を傷つけおったな。最早、覚悟は問わぬぞ」
「あ、あの化け物を排除しなさい!」
明星が出した指示に従い、黒マント達がふわふわとリンに向かう。
ツチグモ達も身体を低くし、攻撃態勢に入った。
「クズ共と戯れておる暇なぞない!」
一喝と同時に手の平を突き出した。
音もなく空間が揺れた。空中の黒マントが次々とへしゃげていく。
ツチグモ達も壁まで吹き飛んだ。まるで熟れたトマトを叩きつけるよう。湿った音を上げて弾ける。
「ひぃぃ」
明星が弱々しい悲鳴を漏らした。
四体の黒マントと三匹のツチグモを文字通り一蹴。
桁違いの力だった。
恐怖に駆られて明星は逃げ出した。
本能的に、ただ出口に向かって走る。
ドアを開けると同時に、表情が凍りつく。
そこに見知った少女が立っていたからだ。
颯一のクラス委員長、瑞穂 舞。
普段は穏やかで控え目な彼女が、溢れんばかりの殺気を込めて睨みつけていた。
「先生が『死の九番』だったなんて残念です」
スカートのポケットから短刀を取った。
刀身が舞の意思を映すかのごとく、冷たい青に輝いている。
「待って! 違うの、違うのよ、瑞穂さん。私の話を聞いて!」
舞の瞳を見つめて、懸命に訴える。
「お願いだから聞いて。私の目を見て、私の話を聞いて」




