【04-12】
「罪です。先生は都合のいい正義を振りかざし人を殺してきた。ただの殺人鬼です」
「常磐さんは、とっても純粋で優しい心を持っているのね」
即答する颯一を憐れむように見つめる。
「ね、考えてみて。校則も守れない生徒が、社会の役に立てると思う? 誰かの為に生きられると思う? 無理よ。社会の害になるだけなの。そんな価値のない存在を、私が価値のある命に代えてあげた。クズほど価値すらない命が、多くの生徒が正しく道を歩む為に使われたの。彼女達も感謝している。私には彼女達の喜ぶ声が聞こえるわ」
明星は胸を張って言い切った。
颯一がぐっと拳を握る。
「僕は色んな人を見てきました。私欲や怨嗟から道を踏み外した人もいたし。身勝手な理由で他人を殺めた人間もいました。しかし、彼らも心のどこかに、小さくても罪悪感がありました。先生にはそれがない。ハッキリ言います。僕は貴方のような邪悪な人間を見たことがない。そして」
ポケットから白黒の玉を出した。
「僕は絶対に貴方を許さない。絶対に罪を償ってもらいます。もし、抵抗するなら、この場で」
強く意思を込める。
それは常人とは違う、術者として生きる者の宿命と言えるだろう。
「僕が殺します」
「常磐さんは、もう少し聡明な子かなと思っていたんだけど。仕方ないわね」
明星の頭上で空気が歪んだ。無機質な白い仮面の黒マントが滲み出る。
その数は四体。以前、教室で颯一を襲った怪異だ。
それだけではない。
明星の足元からは、クモの身体に猿の頭をした化け物、ツチグモが同じように三匹現れた。
「リン!」
「残念ね。このチャペルは特殊な空間なの。私が許可しない限り、妹さんは呼べないわ」
多勢に無勢。
颯一がじりじりと後ずさる。
「なんとか外に……。くっ」
突然視界が揺れて、思わず膝をついた。
「紅茶に少し薬を入れておいたの。安心して。ちょっと気分が悪くなるくらいのものよ。数分で元に戻るから」
その時間を待つ気は、当然ないのだろう。
四体の黒マントが、音もなく近付いてくる。
颯一は背を向けた。
意識が朦朧とする状態では呪力は練れない。逃げるしかない。
ふらふらと出口まで歩こうとするが、黒マントの一体を空気の塊を撃ち出した。
なんとか飛び退いて直撃だけは避けた颯一だったが、壁際まで弾き飛ばされてしまう。
奥のキリスト像を正面とするなら、右側の壁。
ドアからより離れた事になる。
黒マントとツチグモが、颯一の正面に回りこんで、油断なく距離を詰めてくる。
颯一は痛みと痺れで身体を動かす事すらできなかった。
朦朧とする意識の中で、懸命に口を動かし言葉を紡ごうとする。
そんな颯一に憐れみを浮かべながら、明星が尋ねる。
「常磐さん、何か言い残すことがあるのかしら?」
荒く短い呼気の合間を縫って、颯一は途切れ途切れに搾り出す。
「繋がれし、力を、開放、する。解呪」




