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【04-11】

 まず、『死の九番』の仕掛けた謎をすべて見破ってみせた。

 その上で物証を得たように振舞った。

 あたかもチェックメイトであるように思わせたのだ。

 『死の九番』は狡猾な人間。常に多くの可能性を考える。

 自分をこのまま立去らせるはずがない。

 リンのいない、絶好のチャンスだと言うのに。

 

「待ちなさい」

 

 颯一が踵を返すと同時に、明星が告げた。

 

 普段と変わらぬ穏やかな声色。

 だが、強い意思が滲んでいた。

 

 振り向く颯一に、明星はいつもと同じ優しい微笑みを浮かべる。

 

「常磐さんは誤解しているようね」

「どういう意味ですか?」

「私が人を殺害して楽しむ殺人鬼だと思っているんじゃないかしら」

 

 颯一は答えなかった。

 それを肯定と判断して、明星は小さく首を振る。

 

「それは誤解よ。私はこの学院を正しい形にしているだけなの」

「正しい形、ですか」

「私がこの学院に赴任した頃、四十年ほど前かしら。生徒達は腐っていた。個人主義が横行し、自由や権利なんて言葉で、無責任に振舞っていた。このままではいけない。私は何度も生徒達に訴えたわ。でも、誰も私の言葉に耳を貸そうとしなかった」

 

 当時を想い出してか明星から笑みが消える。

 

「私は祈り続けた。全ては生徒達の為。彼女達が正しい人間に成長することだけを願って。でも、そんな私の祈りとは裏腹に、学院のモラルはどんどん低下する。しかも教師達の中には、今の時代にあった校風に変えるべきだ。なんて言う者まで出てきたの。そんな時だったわ。私は父の、神の声を聞いたの」


 明星が視線を移した。

 チャペルの正面中央、十字架に掛かったキリスト像に。

 

「戒めを与えよ、と。そして、私に特別な力を授けてくれたの。私はその力を使った。まず正しい学院を悪しき物に変えようとする教師をふたり」

「殺したんですか?」

 

 颯一の問いに、明星は静かに首を振った。

 

「違うわ。罰を与えたのよ。結果として、学院を変えようとする動きはなくなった。そして次は生徒達を正しい方向に導く為に戒めを与えたの」

「殺したんですね?」

「野蛮な言葉を使わないで。私は戒めを与えただけ。生徒達を正しく導く為に。でも」

 

 ふうっと溜息をついた。

 

「苦労したわ。生徒達の動揺は大きかったもの。だから私は下らない怪談をでっち上げて、怖がって相談に来た生徒達にそれとなく伝えたの。噂はどんどん広がって、校内の風紀を乱す者に罰を与える存在ができあがった。それが少しずつ、『死の九番』となったのよ。いつ自分にカードが来るかという恐怖心も手伝って、あっという間にモラルは回復。今の素晴らしい学院ができあがったの。私のしたことは罪と言えるかしら」

 

 明星の表情には後悔は欠片もなかった。

 むしろ、正義を尽くしたと言わんばかりの自負が滲んでいる。

 

 

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