【01-10】
「ここまで丈を間違うとは、あやつはどこまで間抜けなのだ!」
どすどすと床を踏み鳴らして怒りを露にするリン。
「颯一、あやつを呼び出すのじゃ! 余の鉄拳で再教育してやる!」
「リンが本気で殴ったら死んじゃうから」
「加減はする! 早く呼び出すのじゃ!」
「ダメだって。あ、こっちの方がかなり小さいや。こっちがリンのかな?」
後で開けた方のシャツを広げてみる。
小学生くらいのサイズだ。
「とりあえず、こっちに着替えておいでよ」
眉をひそめるリンに改めて服を手渡した。
「よし、すぐ着替えてくるからな。待っておれ」
踵を返し、部屋に戻っていく。
「それにしても、純さんもうっかりしてるね。女子の制服を二着だなんて」
「いやいや。案外と趣味なのかもしれないでやんすよ」
「確かに兄上は女装が似合いそうではありますからな」
「僕にそういう趣味はないって。とにかく、純さんに連絡しておくよ。僕の分を送り直してもらわないとダメだから」
言いながら携帯電話を手にした。
実のところ、純が送った制服に間違いはなかった。
最初の想定に誤りがあっただけだ。
『聖アンドリューズ学院』は女子高だったのだ。
『死の九番』だけを気にして、情報収集を怠っていたのは、颯一のミスと言えばミス。
転入手続きまで完了し、しかもあれほどの大見得を切った手前。
「女子高とは知らなかったので止めます」なんて言えなかった。
名門術師の緑桜家は、潜入工作用の変装術もお手の物。
身体に塗りつけた特殊な香料で周囲の知覚を微妙に麻痺させ、性別を誤認させる術がある。
颯一の男子としては貧弱な体格も手伝い、上手く化ける事ができた。
常磐 颯香は素性を隠す為の偽名。
リンは凛子という名前で双子の妹という設定だ。
※ ※ ※
──九月九日(月)──
放課後。
緊張感に満ちた長い一日が終了した。
残っていた転入手続きを済ませ、帰り支度を整えると十七時過ぎ。
とりあえず、校内をぐるりと回って帰宅する事にした。
『聖アンドリューズ学院』は正方形の敷地内に、三つの校舎がコの字型に配置されるスタンダートな造り。
南は通学門。西校舎が一年。東は二年。門と対面の北校舎が三年と、学年毎に割り振られている。
各校舎は全て五階建て。
三階以上が通常教室、視聴覚室や美術室等の特別教室は西東の一、二階になる。
北校舎の一階は食堂、二階は職員室だ。
「初めての学校、感想はどうだった?」




