初めてのアレンジ特訓 3回目
「さて、部長はどんな感じにって、あれ!?」
私が驚いたのにはもちろん理由がある。どう見ても普通の野菜炒めが完成する直前だったからだ。
「一段落終わったわ」
「先輩? それは完成品じゃないですよね」
つぶやく私に、真奈先輩が微笑んできた。
「もちろんこれからがアレンジの真髄よ、よく見ておいて」
考えてみれば完成品を別の料理にしたっていいんだよね。結構失念しちゃうもんなー。
「やっぱり素敵」
真奈先輩の動作一つとっても私にとっては勉強になる事ばかりだ。今は中華風ダシと刻みネギを足して水をアレンジする料理の分量くらい差している。水が沸騰したところで水溶きかたくり粉でとろみをつけていた。これって! 私は先輩が作っているものが「あんかけ」だと気づく。
「なるほど、そんな変化のさせ方があったなんて」
私にはまだそんな技術がないので目からウロコだ。真奈先輩が焼きそばをパリっと焼いていた。『あんかけやきそば』を作ったんだ、なるほど。まだ材料が残っているのに私は気づいたが、それも先輩がご飯にかけて『中華飯』にしている。
「さっ、完成よ。お互いに作ったものの感想を言い合いましょうか」
「先輩の方が手の込んだアレンジをしているから私のなんて……」
「有音ちゃんったら、ネガティブになっちゃうのは悪い癖よ」
私の作った『ケチャップ炒め』は少し時間が経ってしまっているので温めるくらいに焼きなおす。その後に2人で味見しあった。
「2回目だけど、有音ちゃん。材料を見てこういう料理を作ろうとした精神GJよ」
真奈先輩が右手親指を立ててグッジョブサインをしてくれた。まるでアメとムチのように苦言も呈されちゃったけど。
「1から作る発想にとらわれちゃったのかもしれないけど、今日の料理を例に上げた場合は野菜炒めを作ってから応用って柔軟さも身につけなきゃ」
「おっしゃる通りです。1から作らないとっていう発想になっちゃっていて」
料理談義で花を咲かせていた2人だが、私の方から味についての感想を始める。
「確かに野菜炒めの材料とあんかけや中華飯の材料は似ていますからね。美味しく出来ています!」
万人受けしそうな味付け、私は予想より結構早く半分くらい食べてしまっていた。
「有音ちゃん、タマネギの切り方だけどもっと目に沁みない方法があるのよ? 調べて知識を増やして」
先輩に味の言及をしてもらえなかったけど、口元に笑みが浮かんでいたので一定以上の成果は出たと思って良さそう。私は「そういえば」と気になっていた事を聞く。
「もしかして先輩、実は飯合先輩達のテーマも意識しました?」
先輩がバレちゃったかって感じの表情を見せた。
「テーマって1つにこだわらずに可能そうなら複数考えながらって考え方もあるのよ」
「わかりました! これからも努力あるのみですね」
食事に使った食器やお皿を洗いながら、私は先輩にいろいろと教えてもらっていた。隣で同じく洗い物をしている先輩にこれからも参考にさせてもらう事が多そうだ。
あっ、タイミング良く隣の教室から奏が出てきた。私に気づかずに帰ろうとしているけど。今日も本当に料理を楽しめたみたいだね。私はそんな奏の楽しそうにしている表情も大好きだよ。
頂いたイラストはちゃんと反映されているかな。
心配ドキドキ