有音の親友に出来ること 9.
その日の放課後から谷川さんの好物を色々作る僕と有音。好物なら食べたい気持ちが復活する可能性が高いと思ったからだ。
「鈴歌ちゃんはスパゲティが好きって言っていたし、大会までに美味しいスパゲティを食べさせてあげれれば。食欲も戻ってトップアスリーターの谷川さんに!!」
「でも鈴歌……どんなスパゲティなら……新田シェフの作った料理でもダメだったのに……新田シェフの"緑のボロネーゼ風"はバジル系だったよね?」
僕と有音でパスタをゆでたり、ひき肉と野菜類・貝類などを炒めて何品も作ったりする。味は基本のトマト系がいいかもとか、貝系がベストだとか、チーズ系もあるなどと話しながら。
「でも谷川さんと有音ってほんとうに仲が良いんだね。知らなかった」
パスタのゆで具合が丁度良いと確認しながら僕が問いかけると、有音がなつかしそうに話す。
「鈴歌はね、私の恩人だから」
「恩人?」
有音の話によると、僕と一緒に行動している間に女の子グループが出来ていた事実が。小学校低学年時の有音は、知っての通り内気だから友達を作るのに苦労していた。そんな時に積極的に話しかけてくれたのが谷川さんだったとの事。彼女らはお互いの明るさに気付いて仲良くなり励ましあう関係になっていたようで。
「それでも鈴歌に支えられて来たのは私の方が多い気がする。だからこそ"鈴歌の力"になってあげたいの!」
(有音……)
有音の友情応えたくて僕はもうしばらくスパゲティを作りまくろうと言った。
次から次へとあれならどうだこんな材料や味付けはどうだろうとばかりに作った、なのにどれもこれもしっくり来ない。
「ダメか……!! 新田シェフの緑のボロネーゼ風と比べて何かが足りないよ……!! これじゃ食べてもらえそうにない……!! どうすればっ」
◇
所変わってここは鈴歌の家。
「鈴歌ったらどうしたって言うのかしら……一番大切な時期なのに……」
鈴歌の母親がやっている事が上手くいかないせいか愚痴をブツブツ言っている。
「わざわざこうやって新田シェフに来てもらっているというのに……」
「まぁまぁ。あの子《鈴歌さん》はナイーブなんでしょう」
断る理由はないけど不可解な事を言われたという話をする鈴歌の母親。教えられた新田シェフはキョトンとしていた。
「鈴歌の同級生の男の子まで料理を作らせてもらえないかって言ってきたんですよ!? 確かこの前来た珍しい名前の……、えーと奏くん?」
「中学生ですよね?」
どうする気なんだかと新田シェフが小馬鹿にしたような表情で笑う。
「あははははっ!! 中学生だって!?」




