有音の親友に出来ること 7
倒れた谷川さんを見て、有音がつぶやいている。
「……鈴歌何があったの……」
不測の事態にいち早く対応したのは新田シェフ。
「きゅ……救急車を!!」
続いて有音が電話に駆け寄りながらも叫ぶ。
「救急車呼ばなきゃ!!」
僕と谷川さんの母親は意識があるかどうか確認のために声掛けするくらいでいっぱいいっぱいだった。
「谷川さん!!」
「鈴歌!?」
しばらくして目を覚ました谷川さん、親友に今の状態を話したら気が楽になりそうと言って母親を一時的に病室の外に出して僕達と面会したいと言ってきたそうだ。それで僕と有音は谷川さんが運ばれた病院の病室に入室する。谷川さんが話し始めそうだったので聞く体勢になる。
「食べられなくて。何ものどが受け付けてくれないの……」
倒れた原因は栄養失調だと谷川さんの母親に聞いてはいたけど栄養剤点滴中の本人の口から聞かされると深刻さが違うように感じた。
「え!?」
「食べられないって……食事を……?」
谷川さんが無言でうなずいている。
「うっ、ううん。きっと思い込んじゃってるだけ……気弱にならないで。いつも私の倍は食べていた鈴歌じゃない……ねぇ!?」
親友としてやれる事をやってあげたいという様子の有音を僕はさりげなくサポートするのに徹する。今はお見舞いの品であるリンゴをむいている有音にお皿を手渡したりしていた。
「何か心当たりとかわかる?」
元気のない声で受け答えする鈴歌。
「わかんない……でも栄養が足りないから体力低下して……記録どころじゃなくなって……先生やコーチも心配してくれるけど……お母さんだって私のために有名なシェフを呼ぶなんて
気遣ってくれているのに……」
表情に辛さを見せる谷川さんを励まそうと有音が明るい声を出している。
「きっと色々あって疲れているんだよ~。ほら、スランプだとしても誰にでもあるから……」
切ったリンゴを爪楊枝に刺して渡す有音。受け取った谷川さんが衝撃的な一言を。
「はい! このリンゴくらいなら食べられないかな?」
「ダメなの……"味がしない"のよ……」
「!?」
やはり有音にとってもかなりの驚きだったようだ。
「味が……しない……?」
それがどういう事かと谷川さんがつぶやいている。
「口の中に感触があるだけ。ツバも出なくて飲み込むことさえ……」




