有音が目撃した奏の成長 5
「大丈夫なのよね……」
奏の母親も心配で仕方がないという様子なのがわかりやすい。有音もその気持ちに同意とはいえ、人の料理を幾人ともなく審査してきた人物だと調べて知った今はまた
奏が酷評されてしまうのではないかと固唾を飲むくらいしか出来ずにいた。
「美味しいという判断を下してもらうなんてなかなか……」
有音がそうつぶやいた時、番参の口の動きが止まった。
「!!」
また改めて丼を食べてくれるか、それとも――と奏が思った所、番参が机に箸を置いた。
「今回も一口だけで!?」
「くそ~!! まだ足りないというのか!?」
驚いている2人をよそに一度目を閉じた番参がレンゲを手に取り、勢い良く丼を食べ始める。
「レンゲを手にしたわ!!」
「!?」
無我夢中とはこういう状況の事をいうのだろう。ただ何かを言ってもらわないと心配する気持ちが残る。そしてかきこむように食べ終えた番参、その彼が満足感を表情で
表し、腹が満たされる心地いいものを感じたぞと息を吐いた。
「うまかったぞっ!! 久方ぶりに納得の行く"丼"を食べた!」
前は厳しい意見を奏につきつけた彼。だからこそ有音もドキドキしていた。だけど奏の料理に対する努力も報われたんだと彼女も我がことのように喜ぶ。
「やった~!」
最後まで食べきった丼の器を指さして番参が奏に訊ねた。
「これに気付いたのはいつだ?」
「!?」
その問いに奏は気づいた点を答える。
「つい最近わかった事なんです……"丼"にとって大事なのは具だけじゃなく……具の味が良く染みて混ざり合ったご飯こそだって」
そこにこの年齢で気づけたのだなと番参が心のなかでうなった。
(ほほう……)
あの丼がけなされて挽回しようと根を詰めすぎていた、番参に認めてもらえる"丼"なんてないと思って諦めの気持ちが。そんな時に僕の様子を見に来てくれた有音の
差し入れ『焼きそばサンド』が鍵でしたと奏がこの丼に行き着くまでを端的に番参に伝える。
「焼きそばサンドを食べた時、そういえばと気付いたんです。僕もずっと具さえ良ければという考え方でしたけど……実は丼で大切なのはそれ以上に……」
奏の話を番参が目を細めて穏やかな笑みを浮かべながら聞いている。だから奏はそのまま話を続けた。
「焼きそばサンドでは焼きそばのソースが染み込んだパンと少しの具だけという最後の一口が格別だったりする、それと同じで丼を美味しくする条件は具の味がしっかり染みて混ざり合ったご飯だと気付いたんです!!」
話をまとめるため、最後に工夫した点を語る。
「丼はお米を美味しく食べるものという観点から主にご飯を意識しました」




